アマガミ 響先輩SS 「子供はちゃんとわかってる」


 「(今日は商店街に寄り道しようかな)」

 「(あれ、前を歩いているのは塚原先輩じゃないか。今日は一人なんだな)」

 「(よし、声をかけてみよう)」

 「塚原先輩」

 「え? ああ、橘君か。こんなところで会うなんて奇遇ね」

 「そうですね。塚原先輩は買い物ですか?」

 「うん、新しい手袋を見ようと思って。橘君は?」

 「僕は新作のゲームを見に、それとゲーセンにも寄ろうかなって」

 「ふふ、七咲が言ってるとおりね」

 「ええ? 七咲が僕の話を?」

 「うん、たまに話題に出てくるよ。ゲームが好きでゲーセンが好きな先輩だって」

 「なんだかうれしいようなそうでないような……」

 「私はあんまりゲームは詳しくないんだけど、今はどんなのが流行っているの?」

 「ゲームセンターだと……」

 「おかあさーん、どこー、おかーさーん、どーこー」

 「あれ?」

 「迷子かしら」

 「そうみたいですね」

 「周りにそれっぽい人はいないし、どうしようか」

 「とりあえず話し掛けてみましょうか」

 「あ、そうだね。でも私は強面だし、余計泣かれちゃったら……」

 「そんなことないですよ」

 「そ、そうかな」
 
 「ええ、きっと大丈夫です」
 
 「そうね。それじゃ……」

 「おかぁさーん、どぉーこぉー」

 「ね、どうしたの?」

 「……!」

 「あ、びっくりしなくていいよ。お母さんを探してるの?」

 「うん、おかあさんがちょっとおみせをみてくるからまっててって、
 それでわたしずっとまってたんだけどおかあさんがかえってこなくて……
  う、く、う、うわーん」

 「お母さんはどこで待っててっ言ったのかな」

 「あのね、あのね、あっちのおみせのまえ」

 「あっちって、結構離れてますね」

 「うん、待っている間にこの子が動いちゃったのかもしれないな。ね。あっちのお店の
 前にいたんだよね」

 「うん」

 「そしたらそこまでおねえちゃんたちと一緒に行こうか」

 「うん」

 「ね、橘君。この周りでそれっぽい人いないか見てくれないかな」

 「はい」

 「おなまえは? おねえちゃんはねひびきって言うの」

 「あたしは……」

 「そうなんだ。すてきな名前ね。あのお兄ちゃんがお母さんをみつけにいって
 くれるからここでお姉ちゃんと一緒に待ってようか」

 「うん、ひびきおねえちゃん」
 
 「そっか、幼稚園の年中さんなんだ。幼稚園ではどんなことをして遊んでるの?」
 
  ……
 
 「(子供を捜してそうな人か…… ざっと見てもいないな。お店の中を捜しているの
 かもしれない)」
 
  ……
 
 「(あ、あの人かも。なんだかきょろきょろしてるし相当焦っているっぽいし)」

 「あ、あのすみません。もしかして迷子の子をさがしていませんか」
 
  ……
 
 「塚原先輩、みつけましたよ。その子のお母さん!」

 「「へっど、しょるだー、にーえんとー、にーえんとー」」
 
 「うわー、おねえちゃんじょうずー」

 「ふふ、そう? ありがとう。うれしいなぁ」

 「あー、おかあさんだー」

 「よかったね。ほらね、ちゃんとお母さんが迎えにきてくれたでしょ?」

 「うん、おねえちゃんのいうとおりだね。おかあさん、おねえちゃんにあそんで
 もらってたの」

 「あ、いえ、この子が泣いていたものですから放っておけなくて」

 「よかったですね。見つかって」

 「ひびきおねーちゃん、ばいばーい」

 「ばいばーい」

 「ふう、ホッとしました」

 「橘君、ありがとう。探すの大変だったでしょう?」

 「ええ、この辺にいないからって別の場所を探しに行っていたみたいで、見つけるのに
 時間がかかちゃいました。すみません」

 「ううん、橘君がいてくれて助かった。私一人だったら、あの子の相手をするだけで
 精一杯でいつ来るとも知れないお母さんを待ちきれなかったかもね」

 「そう言えば、あの子楽しそうでしたね」

 「え?」

 「あの迷子の子、塚原先輩と遊ぶのが楽しくて仕方ないって顔してました」

 「そ、そうだった? とにかくあの子の気を紛らわそうとばかり考えていたから……」

 「強面とか、そんなのちっちゃい子には関係ないってことですよね」

 「え、あ、……うん、そうだね」

 「ちっちゃい子は純粋だから物事の本質を見抜く力があるってTVで言ってました。
 だから、自信もっていいんじゃないですか」

 「……私ね。小児科医になるのが夢なんだ。でも、子供に恐がられるんじゃないかって
 ずっと不安だった」

 「塚原先輩……」

 「でもね。あの子と一緒にお話をして、遊んでみて、ああ何とかななりそうだって
 そう思えた」

 「そうですか」

 「うん、橘君のお陰だよ」

 「え? 僕はなんにもしてないですよ」

 「ううん、橘君があの子に話し掛けようって言ってくれたから、結果として私は自信を
 持つことができた。君のお陰よ。ありがとう」


 迷子の母親を探すのはちょっと大変だったけど、塚原先輩が自分の夢に対して自信を
持つことができたみたいだ。
 走り回ったかいがあったな。


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