アマガミ 響先輩SS 「名探偵はるか?」


 「休み時間にベンチで日向ぼっこは最高だなあ」

 「先輩。なにしてるんですか?」

 「ああ、七咲。ご覧のとおり日向ぼっこ」

 「クスッ、なんだか猫みたいですね」

 「七咲も座ってみればわかるよ。暖かくて気持ちいいよ」

 「そうですか? ふふ、それではお言葉に甘えて」

 「いい天気だなあ」

 「そうですね。あ、確かに暖かくて気持ちいい」

 「ね?」

 「はい」

 ……

 「あ、いたいた。逢ちゃん、ちょっといい?」

 「あ、森島先輩」

 「ありゃ、もしかしてお邪魔だったかな?」

 「そ、そんなことないです。先輩がいたからちょっと声をかけただけです」

 「大丈夫ですよ。七咲と日向ぼっこしてただけですから」

 「そう。よかった。橘君もいるからちょうどいいわ。ね、最近ひびきの様子が
 おかしいと思わない?」

 「塚原先輩が、ですか?」

 「そう」

 「特に変わったようには感じませんけど……」

 「むむ、それじゃひびきの変化を感じ取ったのは私だけってことか」

 「塚原先輩がどうかしたんですか?」

 「うん、ひびきがここ数日変なのよ」

 「変、ですか?」

 「そう、なんて言えばいいかな。うーん、そうねえ。とにかくすごく機嫌がいいの」

 「塚原先輩が機嫌がいいのが変なことなんですか?」

 「あ、そう言うことじゃなくて、私がちょっとからかってもひびきに面倒かけても
 なんて言うか、機嫌よく笑ってすましてくれるって言うか、そんな感じ」

 「そういえば、水泳部の練習でもいつもと変わらない厳しさの中にやわらかさが……」

 「七咲、よくわかるね」

 「な、なんとなくです。自信があるわけじゃないです」

 「そうそう、それ。逢ちゃんの言うような感じよ」

 「え?」

 「いつもなら、まったくもう、ってため息つくような状況でも、いいわよなんとかする
 から、って言ったりとか、カバンの方を見て妙にニコニコしてたりとか、とにかく
 いつもと違う感じがするのよ」

 「なるほど」

 「(カバンの中と言うと、白とピンクの可愛い手袋のことかな? ほめたらずいぶん
 喜んでいたけど…… あれは森島先輩には内緒だっけ)」

 「それでね。ひびきに聞いても”そんなことないよ”って言って教えてくれないから、
 逢ちゃんや橘君なら何か知ってるかな、って思って」

 「塚原先輩が機嫌がいい理由、ですか……」

 「あ、そう言えば受験勉強も終わって、最近はタイムが伸び気味だって言ってましたね」

 「うーん、水泳のタイムが良くなった時の様子じゃないのよね」

 「(そう言えばあの服を買った時もずいぶん上機嫌だったな。帰り道、鼻歌交じり
 だったし…… それも関係あるのかもしれない。あ、でも、これも森島先輩には
 内緒だっけ)」

 「関係あるかわかりませんが、最近私のタイムも伸びています」

 「そっか、そっちは新たなパターンね」

 「他には……、すみません。思い当たる節がないです」

 「うーん、私はひびきがメロメロになるような子が現れたじゃないかって思うんだけど、
 どうかな」

 「塚原先輩がメロメロ!?」

 「そう、過去にない機嫌のよさ、にじみ出る柔らかさ、数々の状況証拠を基に推理する
 と、きっと気になる男子ができたのよ」

 「そ、それは飛躍のし過ぎじゃ……」

 「そんなことないわ。窓の外をボーっと見ながら終始笑顔だったり、突然”ふふ”って
 笑ってみたり明らかにあれは誰かを意識した感じだと思うな」

 「た、確かにそうかもしれませんが……」

 「んー、あれかな。推薦が決まって、さすがのひびきもちょっと浮かれてるってこと
 なのかな」

 「(ちょっと浮かれたくらいで気になる男子なんてできないと思うんだけど……)」

 「でも、やっぱりひびきも女の子よね。普通は気になる男子の一人もいるものだもの。
 ね、逢ちゃん」

 「え、あ、その…… まあ、はい」

 「それとも…… そう、ひびきにアプローチをかける男の子がいた、なんて言うのは
 どうかしら」

 「えー、塚原先輩に、ですか」

 「この間ひびきが男子と二人で一緒に帰った、と言う目撃情報もあるわ。
 もしそうだとしたら、うちの高校にも見る目のある男子がいたってことね」

 「塚原先輩が男子と二人で……」

 「(……まさか、この間の帰りのことかな。だとしたらその男子って……僕!?)」

 「んー、ひびきもみずくさいなあ。ひとこと言ってくれれば力になるのに」

 「森島先輩。塚原先輩の目撃情報っていつの話ですか?」

 「4日前だったかな? 夕方でよくわからなかったけど、なんだかすごくいい感じ
 だったってクラスの子が言ってたわ」

 「そ、そうなんですか」

 「うん、あ、もしかして橘君もひびきの相手が誰か気になる?」

 「え、あ、まあ…… (間違いない、それって僕のことだ)」

 「そうよね。あのひびきをメロメロにする相手だもの。きっとなにか特別な能力とか
 そう言うのを持っているに違いないわ」

 「も、森島先輩。あの、なんだか路線がずれているような……」

 「なんの路線がずれているの?」

 「あ、塚原先輩」

 「(うわ、なんてタイミングなんだ)こ、こんにちは」

 「はるかに七咲に……橘君。ふふ、なんの話?」

 「あら、ひびき。ちょうどいいところへ。ねえ、ひびきをメロメロにするような
 イケメンで特殊能力を持った見る目のある男子って、一体誰?」

 「……はぁ、人の顔を見るなり何を言い出すかと思ったら」

 「やっぱり親友としては気になるじゃない。一体誰? 私の知ってる人??」

 「はるか、一体何を言ってるの? いつ私がメロメロになったの?」

 「証拠はバッチリあるわよ。ひびきが最近浮かれているのは、数日前に一緒に帰った
 男子のせいね」

 「え!? な、なんのこと。べ、別に浮かれたりはしてないし、そもそも男子と
 一緒に帰ったなんて……」

 「目撃情報があるの。ね、誰? その男子って」

 「別に誰だっていいじゃない。はるかには関係ないでしょ? それにメロメロになる
 ような関係じゃないし…… あ。」

 「はあ、語るに落ちるとはこのことですね」

 「(あの塚原先輩が誘導尋問に引っかかるとは)」

 「やっぱり男子と一緒に帰ったんじゃない。すごく耳が赤いなあ。どうしてかなあ」

 「え!? う、うそ、そんなこと……」

 「……真っ赤、ですね。塚原先輩の耳」

 「……だなあ」

 「も、もう、みんなでそうやってからかうの?」

 「そんな、からかうつもりなんてないです」

 「そうそう、真剣にひびきと気になる相手の中を取り持とうって思ってるんだから」

 「(う、つ、塚原先輩。そんな目でこっちを見ないで下さい。なんて答えれば
 いいんですか)」

 「あ、そ、そういえば、高橋先生に呼ばれていたんだった。職員室に行ってくるね」

 「あ、こら、待ちなさい、ひびき。逃げるなんてずるいわよ」

 「本当に呼ばれているんだって。もう、しつこいな」


 「驚きました。塚原先輩があんなふうに照れたのを見たのは初めてです」

 「そ、そうなんだ」

 「ええ。誰なんでしょうね。あの塚原先輩が耳を赤くするような相手って」

 「……」

 「先輩?」

 「あ、ああ、誰なんだろうね」


 塚原先輩がご機嫌なのは、きっと手袋の件や洋服の件のせいなんだろう。
 森島先輩は随分誤解しているみたいだけど、きっと以前のように次の休み時間には
いつもの二人に戻っている気がする。
 それにしても、僕が塚原先輩の……か。塚原先輩はどう思ったんだろう。



アマガミSSのページへ戻る