アマガミ 響先輩SS 「ファン第一号」


 「(塚原先輩に僕が先輩のファンだと言ったけど、塚原先輩はどう思っているんだろう)」

 「(別れ際にはぐらかされちゃったし、もしかして冗談だと思われているのかな)」

 「(よし、塚原先輩に僕が先輩のファンだと言うことをアピールしよう)」

 「(一体どうすればいいかな……)」

 ……

 「(うう、夕方になると風が冷たいな。塚原先輩と一緒に帰って先輩にアピールしよう
 と思ったけど……塚原先輩はまだかな)」

 「(あ、向こうから歩いてくるのは塚原先輩だ。今日も一人みたいだな。よ、よし……)」

 「塚原先輩」

 「え? あ、橘君。どうしたの?」

 「先輩と一緒に帰ろうと思って待ってました」

 「私を? ここで?」

 「ええ、今日も一人なんですね」

 「うん、はるかがあの調子だから、時間をずらしてるんだ」

 「それでなかなか出てこなかったんですね」

 「そうなんだ。なかなかはるかがあきらめてくれなくて」

 「森島先輩、粘りますね」

 「そうだね。あれが自分の恋愛に向くといいのに」

 「そうですね」

 「ところで橘君、もしかして正門でずいぶん待った?」

 「ええ、まあ」

 「くす、寒かったでしょう? あきらめて先に帰ってくれてもよかったのに」

 「いえ、ファンとしては塚原先輩が来るまで待つくらい何ともないですよ。
 練習、お疲れ様でした」

 「ふぁ、ファンって誰の?」

 「もちろん塚原先輩の」

 「また…… 年上をからかうのはよくないよ。橘君」

 「からかってなんかないですよ。塚原先輩が迷惑でなければ、一緒に帰りたいなあって
 思ったからずっと待ってたんです」

 「そ、そう言ってもらえるのはうれしいけど……」

 「迷惑でしたか?」

 「……ううん。そんなことないよ」

 「よかった」

 「はるかがしつこいから、ちょっといらいらしていたんだけど、ふふ、橘君の顔を
 みたらそんなのどうでもよくなっちゃった」

 「そう言えば、手袋はしないんですか?」

 「あ、そうそう、もう学校を出たから大丈夫だね」

 「あたたかそうですね」

 「うん、あたたかいよ。触ってみる?」

 「え?」

 「はい、手を出して」

 「こう、ですか?」

 「ね?」

 「ほんとだ。なんだかずっとこうしていたいようなあたたかさですね」

 「ふふ、そうでしょ? 色もデザインも好きなんだけど、これ、肌触りもいいんだ。
 だからちょっとキャラじゃないかなって思ったけど買ったんだ」

 「なるほど、納得です」

 「ところで、私のファンって本気なの?」

 「本気ですよ。嘘なんか言ってません」

 「はるかとか七咲とか、他にかわいい子はたくさんいると思うんだけど」

 「そう言う問題じゃないです。確かに森島先輩はきれいだし人気もあるし、七咲は
 とてもかわいい後輩です。でも」

 「でも?」

 「誰のファンかって聞かれたら、塚原先輩なんです。自分でもうまく説明できない
 ですけど」

 「そうなんだ」

 「ええ、すみません」

 「ふふ、謝ることないよ。……そっか、それじゃ橘君が私のファン第一号だね」

 「え?」

 「私のファンだ、なんて言った人は橘君が初めてだもの。だから第一号」

 「やった、塚原先輩公認だ」

 「あ、でも、だからと言ってそれを学校の中で言わないでね。はるかに知れたら
 それこそどうなることか……」

 「はい、それじゃこれも内緒、ですね」

 「くす、そうだね」

 ……

 「あ、ね、橘君」

 「なんですか?」

 「手を離してもいいかな」

 「え、あ、す、すみません。気持ちよくてあたたかくて、つい」

 「ううん、い、いいんだけど、こう言う経験ないからその、恥ずかしくて」

 「い、今離します。また目撃でもされていたら大変ですしね」

 「そ、そうね。まさか、とは思うけど……ね」

 「ええ、まさか…… つ、塚原先輩なにげなく後ろを振り向いて下さい」

 「……こう? あれ?」

 「今露骨に隠れた人影が……」

 「いたよね?」

 「いましたね」

 「え、えーと、気のせいかな?」

 「気のせいってことにしておきましょうか」

 「そうね、そうしましょう」

 「はい」


 塚原先輩から公認ファン第一号の認定をもらった。
 塚原先輩の手袋がすごくあたたかくて気持ちいいこともわかった。
 ところで、あの人影は誰だったんだろう?



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