アマガミ 響先輩SS 「ティーチャーひびき」


 「うん、そこはここにかかる力を考慮しないといけないから……」

 「ああ、なるほど、その分を差し引かないといけないんですね」

 「そうなんだ。結構みんな、そこで引っかかるんだよね」

 「見落としがちですもんね」

 「うん、あ、でも、この手の問題は考慮が必要なら、必ず問題文に注釈がつくと
 思うから……」

 「問題文をよく読め、ってことですね」

 「うん、そう言うこと」

 「塚原先輩、橘先輩」

 「ああ、七咲。どうしたの」

 「ふふ、二人で楽しそうに勉強しているから、邪魔しに来ちゃいました」

 「じゃ、邪魔なんてことないわよ。歓迎よ」

 「(た、確かにちょっと残念かもしれないけど、七咲なら……)」

 「そうですか? よかった」

 「それで七咲は何の勉強?」

 「相変わらず数学なんです」

 「そう言えば、前にも……」

 「ええ、橘先輩に教えていただいて、あの時はバッチリでした」

 「うん、それで今回はどこがわからないの?」

 「今回は、ここなんです」

 「ああ、確かにわかりにくいところだね」

 「塚原先輩、どうしてここがこうなるか、教えてもらえませんか?」

 「うん、そこはね……」

 「(塚原先輩、勉強ができるだけじゃなくて、教え方もうまいなあ……)」

 「(僕の物理もそうだけど、数学だってポイントを的確に捉えてるし、それを伝える
 のもうまいし……)」

 「(それにしても、真剣に考えている七咲の横顔に、それをやさしく見守る塚原先輩の
 横顔…… これってもしかしてすごく贅沢な光景なんじゃないだろうか……)」

 「先輩っ」

 「え!?」

 「なにぼーっとこっちを見てるんですか?」

 「あ、いや、七咲がすごく真剣に話を聞いているな、と思って」

 「それはそうですよ。教えてもらっているのにぼーっとなんてしていられないです」

 「そ、そっか。そうだよな」

 「当然です」

 「ところで、橘君はそっちの問題解けたの?」

 「え? ああ、ばっちりですよ。ほら」

 「……ホントだ。君すごいね。ちょっと教えただけなのに」

 「そんなことないですよ。きっと塚原先輩の教え方が上手なんですよ」

 「そ、そうかな……」

 「ええ」

 「じゃあ、確認でこっちの問題も解いてみて」

 「はい」

 「……だとするとここがこうなって、こうだから。あー、もうわかりにくい」

 「ふふ、ね、七咲。この問題は図を描いて目で見えるようにしたほうがわかりやすいよ」

 「図を描く……ですか」

 「そう。数字の羅列だと各点の関係がわかりにくいでしょ? だから、こうやって……」

 「あ、ホントですね。そうか、こういうことなんだ……」

 「うん」

 ……

 「あ、いたいた」

 「森島先輩」

 「あらはるか、どうしたの?」

 「どうしたもなにも、さっきから私をほっぽらかして帰ってこないと思ったら、
 こんなところで楽しそうになにやってるの」

 「え? あ、そ、そう言えば……」

 「図書室に資料を探しに行くねー、って出ていったっきり帰ってこないんだもん。
 どうしたのかと思って見にきてみたら、橘君や逢ちゃんとなにやら楽しそうに
 してるし……」

 「あ、ご、ごめんね。はるか。忘れてたわけじゃ……ないんだ」

 「ふーんだ。どうせ私よりも橘君と一緒の方がいいんでしょうよ」

 「あ、だから、その」

 「森島先輩。僕が塚原先輩を引きとめて勉強を教えてもらえるようにお願いしたんです。
 僕が悪いんで、その、勘弁してもらえませんか?」

 「うーん、橘君にそう言われると弱いなあ…… でも、単にひびきをかばってる
 ようにも聞こえるし……」

 「は、はるか。資料はもう見つかってるし、すぐに教室に戻るから、ね」

 「そうでさぁねえ……」

 「どうしたら許してもらえる?」

 「そうね…… それじゃ、橘君を私に一日貸して」

 「え!?」

 「そ、そんな、森島先輩ずるいです」

 「は!?」

 「わお、思わぬところからダメ出しが…… うーん、逢ちゃんに怒られちゃったか」

 「もう、当たり前です」

 「ね、ねえ、はるか。商店街のクレープで手を打たない?」

 「クレープ……ねえ」

 「ジュースもつけようかな……」

 「うーん」

 「それじゃ、みんなでこの後クレープを食べに行くって言うのはどうです?」

 「うん! それならいいわ」

 「ふう…… やれやれ」

 「そもそもの原因はひびきでしょ?」

 「もう、わかってるわよ」

 「塚原先輩、すみません。見かけた時に声をかけなければよかったですね」

 「ううん、そんなこと……ないよ」

 「あ、ひびきが照れてる」

 「もう、はるかったら、茶化さないの」


 この後4人でクレープを食べに行った。
 森島先輩も七咲も終始ご機嫌だった。
 塚原先輩は……と言うと、うれしそうな困ったような、そんな顔をしていた。
 それにしても、森島先輩のことを忘れちゃうなんて、塚原先輩でもそう言うことって
あるんだな。



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