アマガミ 響先輩SS 「彼女の悩み」


 「ねえ、橘君。ちょっといいかな?」

 「森島先輩。どうかしたんですか?」

 「うん……、単刀直入に聞くけど、橘君、ひびきになにかした?」

 「塚原先輩に、ですか?」

 「そう」

 「特に思い当たる節はないですけど」

 「うーん、そうなんだ」

 「塚原先輩、どうかしたんですか?」

 「なんていうのかな、ここ最近のひびきとちょっと違う感じがするんだ」

 「違う感じ、ですか」

 「そう。先週くらいまでは、なんかこう、幸せいっぱいって感じが伝わって
 きたんだけど、今週に入ってからどことなく物憂げって言うか……
 変なため息ついてるんだよね」

 「一緒に帰っていておかしな様子はなかったですけどね」

 「そっか、じゃあ私の思い過ごしかな」

 「でも、森島先輩がちょっと違うって思うってことは、違うんじゃないですか?」

 「うーん、そうだねえ。なんだろう、とにかくいつものひびきと違うのよ」

 「それじゃ、今日の帰りにでも様子をうかがってみますね」

 「そうしてくれる?」

 「ええ」

 「橘先輩、森島先輩」

 「あら、逢ちゃんじゃない」

 「ん? 七咲、どうした。深刻な顔をして」

 「あの……、えっと……、橘先輩、塚原先輩になにかしました?」

 「え!?」

 「変なんです。塚原先輩。練習中もずっと考えごとしてるし、打ち合わせのときも
 こっちの声が耳に入っていないような感じだし」

 「逢ちゃんもひびきがいつもと違うって思ったんだ」

 「え? じゃあ、森島先輩も、ですか?」

 「うん、教室でもぼーっと考え事をしていたり、突然ため息をついてみたり、
 手帳を取り出して眺めてみたり、今までのひびきとは違うのよ」

 「なるほど」

 「ぼ、僕はなにもしてないよ」

 「本当ですか?」

 「本当だよ。昨日の帰りだって、森島先輩と七咲が言ってるような様子は見えな
 かったし」

 「あ、昨日も一緒に帰ったんですか。どうりで放課後見かけないわけですね」

 「あ、その」

 「うーん、橘君とケンカしたわけじゃなさそうだね」

 「ケンカなんてしてないですよ」

 「いきなり抱きついた、とか、キスを迫った、とか」

 「それもないです」

 「そっか、だとすると原因はなんなのかしら。ひびきのあの様子はただ事じゃないと
 思うんだけどな」

 「そうですね……」

 「これはひびきに直接聞いてみるほうが早いかもね」

 「あ、確かにそうですね。橘先輩や森島先輩でも理由がわからないんじゃ、
 私がいくら考えても答えは出そうにないですし」

 ……

 「ねえ、いきなりどうしたの? 七咲や、橘君まで一緒に」

 「単刀直入に聞くわ、なにがあったの? ここ数日ちょっと変よ」

 「え? な、なんにもないわよ。なんにも……」

 「なんにもなくて、突然ため息をついたり、部活の最中にあらぬところを見ながら
 もの思いにふけったりはしないわよ」

 「塚原先輩、あの、私心配で……」

 「ありがとう。心配してくれて。でも、ホントになにもないのよ」

 「そんな風には見えないです。なにか大きな悩みを抱えてるように見えるんです」

 「ね、ひびき。私たちで力になれることなら協力するわ」

 「そうですよ」

 「……はあ、みんなお節介だね」

 「え?」

 「本人がなにもないって言ってるんだから、それでいいじゃない」

 「ひびき」

 「塚原先輩っ」

 「みんなが集まって、悩んで、それで解決するような問題はなにもないよ。
 だから、しばらく放っておいてくれないかな」

 「ひびき!」

 「塚原先輩!」

 「橘君、ごめん。今日は一人で帰るね」

 「塚原先輩。僕にも話してもらえないような悩みなんですか?」

 「……ごめん。自分の考えがまとまったらそのとき話すから」


 塚原先輩の悩みって、一体なんなのだろう。
 僕や七咲はともかく、森島先輩にも話せない悩みって……
 すごく気になるな。




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