アマガミ 響先輩SS 「番外編 初詣に行こう!」




 創設祭から数日。
 世間はすっかり年末モードに入り、輝日東高校も冬休みに突入していた。
 その輝日東の町のある家で、先ほどから電話器の前をうろうろしている姿があった。
 橘純一、である。
 彼は数日前の創設祭で1学年上の先輩である塚原ひびきと付き合い始めたばかり、
そんな彼が電話の前をうろつくにはわけがあった。


 「うーん、かけるべきかかけざるべきか、それが問題だ……」


 別にシェークスピアを気取っているわけではない。
 彼にそこまでの含蓄もないし。


 「こう言うのは勢いだ、えい!」


 と意を決して受話器をつかみボタンをプッシュし始めた彼。
 かけた先は……


 「プル、プルルルルルルルル、プルルルルルルルル、ガチャ、はい、塚原です」

 「あ、つ、塚原さんのお宅でしょうか、ぼ、僕は輝日東高校の……」

 「あ、橘君。ふふ、どうしたの?」

 「塚原先輩だったんですか……。ふう、緊張したー」

 「そんなに緊張することでもないでしょ? 初めてかけてくるわけじゃないんだし」

 「そうですけど……」

 「それと、2人の時は名前で呼んでくれるんじゃなかったっけ?」

 「あ、う、その、まだ慣れなくて」

 「ふふ、それでどうしたの?」

 「あ、そうだ。ひ、ひびき……先輩はお正月はどう過ごすんですか?」

 「え? あ、もしかして……」

 「ええ、三が日のどこかで一緒に初詣に行きたいな……って思って」

 「うーん、ごめんね。三が日はちょっと用事が入っていて……」

 「あ、やっぱり家族と過ごすとか親戚で集まるとかそう言うのがありますよね……」

 「そ、そう言うわけじゃないんだけど…… その、頼まれてバイトをしてて、三が日は
 全部つぶれちゃうんだ」

 「そうなんですか…… 何のバイトなんですか?」

 「え、えっと…… 言わないとダメ?」

 「言いたくなければ無理にとは言わないですけど……」

 「……ごめん」

 「いえ……」

 「そんなに落ち込まないでよ」

 「落ち込んでなんかないですよ……」

 「あ、ごめん、キャッチホンが……」

 「ええ、それじゃまた電話します」

 「うん、ごめんね」


 落ち込んでいない、と言う言葉とは裏腹にどこからどう見ても落ち込んでいる体の橘さん。
 まあ、落ち込むなというほうが無理だろう。
 年末に付き合い始めたばかりのカップルにとって最初のイベントである初詣の
それも約束の時点で出鼻をくじかれたのだから。


 「ふう、だめだ…… テンションが上がってくるまで押入れにでも入るか……」


 秋以降、ひびきやはるか、七咲とのやりとりが楽しくて押入れの暖かさを忘れて
いられた橘さん。
 でもここに来て心の中を寒風が吹きすさび始めたようだ。


 「ああ、ここはいいな。嫌なことを忘れさせてくれる……。それにしても、僕に
 言えないようなバイトってなんなのだろう」


 そのまま居着いてしまう勢いの橘さん。
 押入れにこもってどれだけの時間が経過しただろうか。
 でも押入れにいついてしまうなんて、そうは問屋が卸さないのであった。


 「……ぃに。にぃに!」

 「……なんだよ、うるさいぞ美也」

 「にぃにに電話だよ」

 「電話!」

 「うん、逢ちゃんから」

 「七咲から?」

 「そう」

 「一体なんだろう?」


 首を傾げなら受話器を握る橘さん。


 「もしもし」

 「もしもし、お兄ちゃん?」

 「はいぃ!?」

 「……こんにちは、先輩。七咲です」

 「ああ、びっくりした」

 「ああもう。先輩、忘れちゃったんですか?」

 「な、なにを?」

 「先輩は私のお兄ちゃんみたいなものだって言ったじゃないですか」

 「あ、そうだったね」

 「それで、学校でお兄ちゃんって呼んだら、それは勘弁してくれって言うから、
 それじゃ学校の中ではやめますって言いましたよね?」

 「……うん、そうだった」

 「だから、今は学校じゃないので、お兄ちゃんって呼んだんですけど……」

 「あ、あれってそう言うことだったの?」

 「そうですよ。もう、忘れてるなんてひどいじゃないですか」

 「ご、ごめん。勘違いしてたよ」

 「もう……わかりました。電話の時もお兄ちゃんとは呼ばないようにします」

 「すみません」

 「……それで、ですね」

 「はい」

 「さっき森島先輩から電話があって、年が明けたら一緒に初詣に行かないかって
 誘われたんですけど、先輩も一緒に行きませんか?」

 「初詣?」

 「ええ、そうです」

 「森島先輩と七咲と?」

 「はい。予定、空いてますよね?」

 「うん、空いてるけど……」

 「それじゃ、よろしくお願いしますね。森島先輩も楽しみだって言ってましたから」

 「あ、うん」

 「それでは失礼します」


 妹からもぞんざいな扱いを受けているのはいつものこととして、七咲に半ば畳み掛け
られるように初詣の約束をする橘さん。
 さて、ぽっかり空いた心の穴は埋められるのだろうか?



 正月。元旦。
 橘さんは約束の場所ではるかと七咲を待っていた。


 「(んー、それにしても七咲と森島先輩に初詣に誘われるとは……)」

 「(二人とも正月は特に予定がないってことか)」」

 「(塚原先輩もそうだとよかったのにな……)」

 「(バイトってなんのバイトなんだろう? こうしている間も仕事してるんだろうな……)」

 「おまたせー」

 「お待たせしました」

 「あ、森島先輩に七咲」

 「先輩、明けましておめでとうございます」

 「今年もよろしくお願いね」

 「こちらこそ…… 二人とも着物なんですね。なんだかお正月からいいものを見た気分です」

 「……そう、ですか?」

 「またまたー、橘君、口がうまいんだから」


 はるかは白を基調とした振袖姿。七咲は紺の絣。
 二人並んで歩けば道行く野郎どもが皆振り返るであろうことは想像に難くない。
 

 「2人ともすごく似合ってますよ」
 
 「ふふ、まあ、このくらいしないとね」

 「ええ、負けちゃいますからね」


 両手を広げ気味にくるんと周る七咲。


 「負けるってなにに?」

 「あ、それはこっちの話」

 「それじゃ、行きましょうか」


 先頭切って歩き始めるはるかと七咲。
 なにか思うところがあるようだ……。
 
 
 にこにこと話をしながら歩くはるかと七咲。
 本来なら両手に花状態の橘さんは、しかし、2人の後姿を見つつ足取り重く歩いていた。


 「森島先輩や七咲の着物姿もきれいだけど、ここに塚原先輩がいたらなあ……。
 しかも着物姿で」


 なるほど、さもありなん。
 

 「先輩、凹み気味ですね……」

 「多分、ここにひびきがいないからじゃないかな?」

 「先輩。ここにきれいどころが2人もいるんですから、そんな顔しないで下さい」

 「あ、ごめん」


 ごめんと言いつつテンションはMid〜Lowの橘さん。
 罰当たりな話しである。
 ミスサンタコンテスト3連覇の美女と一年生で評判のかわいい後輩。
 彼女達と一緒に初詣にいける、と言うだけでも羨望のまなざしを集めること
請け合いだと言うのに。
 しかも今回は着物姿なのだから言うことないはずである。
 振袖姿のはるか、オレンジのアクセントの入った紺の絣姿の七咲。
 七咲に至っては髪の毛を頭のてっぺん近くでキュッと結んでおり、その髪の毛が歩く
たびにピコピコ揺れているのである。
 これを眼福と言わずしてなんと言おう。
 男女のカップリングを決める神様はなんと不平等なのだと思う瞬間である。


 参拝の人であふれる神社の境内。
 参道を挟んで縁日のように屋台が並んでいる。


 「んー、あそうだ。ねえ、逢ちゃん、逢ちゃん、ちょっと耳かして」

 「え?」

 「なんですか?」

 「あのね、……でね、……だから、……ね」

 「ふふ、面白そうですね」

 「それじゃ、レッツスタート!」

 「ねえねえ、お兄ちゃん」

 「お兄ちゃん」


 振り向き、一斉に橘さんに話し掛ける2人。
 ご丁寧に七咲は下から見上げるようなポジションに入っている。


 「え? あ、なに、これ」

 「もう、橘君、ノリが悪いぞ」

 「そうですよ」

 「ええ!?」

 「お兄ちゃん訓練その2。今回は初詣に来たって言うシチュエーションで、素敵な
 お兄ちゃんになる訓練をするの」

 「もしかして、またあれをやるんですか?」

 「もちろん。ひびきがいないのがちょっと残念だけど、今回は逢ちゃんがいるから
 いいわよね」


 なにが”いいわよね”なのかよくわからないが、はるかが悪ノリを始めたようだ。
 橘さんの脳裏にある記憶がよみがえる。
 あの時は確か、デラックス定食をおごる羽目になった。
 だとすると今回は一体……


 「でも、今日は周りにこんなに人がいるし、迷惑ですよ」

 「あ…… 確かにそうですね」


 橘さんに言われ、周囲を見回し手のひらを返す七咲。
 なんだかんだ言って彼女ははるかと橘さんを天秤にかければ橘さんをとる子だ。
 惚れた弱みと言えるかもしれない。


 「いついかなる時でも素敵なお兄ちゃんでいられる訓練をするんだから、
 時間と場所を選ばないわ」


 あくまで押し切る構えのはるか。


 「あ、そうだ、こうしましょう」

 「え?」

 「はるかお姉ちゃん、はるかお姉ちゃん。すごい人だね」

 「え? え??」

 「もう、ノリが悪いですよ。僕も七咲も森島先輩の年下なんですから、
 今日は素敵なお姉ちゃんとして振舞ってくれないと。なあ、逢?」

 「あ、そ、そうですね…… と、ところで先輩、なんで急に名前で……」

 「そりゃあ、森島先輩がお姉ちゃんなら、年齢順で僕が七咲のお兄ちゃんだろう?
 だからさ」

 「あ、そう言うことですか……わかりました」

 「うーん、私が橘君と逢ちゃんのお姉ちゃんか……」

 「ええ、これははるかお姉ちゃんが真のはるかお姉ちゃんになるために必要な訓練なんです」

 「むむむ、そう言われたら受けて立たないわけにはいかないわね。橘君その話乗ったわ!」

 「森島先輩、楽しそうですね」

 「うん! 私、弟はいるけど妹がいないから、逢ちゃんに”お姉ちゃん”って言われる
 となんだかうれしくて。それに面白そうじゃない」

 「それじゃ、決まりですね」


 うまく切り返した上にはるかを丸め込むことに成功した橘さん。
 七咲ははるかの反応に苦笑い。
 とうのはるかはまんざらでもない様子。


 「それじゃ、これから参拝が終わるまでは森島先輩のことをお姉ちゃんとして扱うこと」


 その言葉を合図に、はるかのお姉ちゃん修行が始まった。


 「はる姉、すごい人だね」
 
 「はる姉?」

 「ええ、はるかお姉ちゃんだから、略してはる姉です」

 「あ、なるほど。えーっと、そうだね、純ちゃん」

 「じゅ、純ちゃん!?」

 「あれ? 私を短縮形で呼んで自分はダメなの?」

 「そ、そんなことないです」

 「は、はるかお姉ちゃん……」

 「なに? 逢ちゃん」

 「あ、その……呼んでみただけです」

 「ふふ、逢ちゃん可愛いー」


 思わず七咲に抱きつくはるか。
 目を白黒させる七咲。


 「はるかお姉ちゃん。あのね」

 「はる姉。向こうにイケメン警官が立ってるよ」

 「はるかお姉ちゃん、ほらほらあっち」
 

 お姉ちゃんを連呼され上機嫌なはるか。
 橘さんはさっきまでの低いテンションはどこへやら、なにやら一計を案じている様子。


 「七咲、ちょっと……」

 「なんですか?」

 「ちょっと耳貸して」

 「はい……」

 「あのな……でな……ってすれば……だから……」

 「せ、先輩。本当にやる気……ですか?」

 「もちろん。うまくいけば一石二鳥だ」

 「……はぁ。全くしょうがない弟ですね」


 「はるかお姉ちゃん」

 「なに? 逢ちゃん」

 「あの屋台って、一体何を売ってる……の?」

 「うーん、なんだろう?」

 「どれどれ、ああ、銀杏の屋台だね」

 「ぎんなん……ですか。銀杏っていちょうの実ですよね?」

 「あー、あの黄色くてくさーいやつね」

 「はる姉の言うとおり、あの臭い銀杏」

 「美味しいのかしら?」

 「はる姉、食べたことない?」

 「うん、そう言われてみればないわね」

 「銀杏を炒っているみたいですね……」

 「ああ、銀杏のあの臭い部分を取り除いて、中の種を殻ごとああやって炒って食べるんだよ」

 「……どんな味がするんでしょう?」

 「食べてみた方が早いと思うよ。ね、はる姉」

 「そ、そうね」

 「僕、銀杏、食べてみたいなー」

 「え?」

 「食べてみたいなー。なあ、逢」

 「そ、そうだね。お兄ちゃん。逢も食べてみたいなー」

 「うーん、もうしょうがないなあ。買ってあげるから、みんなで食べてみましょう」

 「わーい、はる姉、ありがとう」

 「お姉ちゃん、ありがとう」

 「ふふん、このくらいお姉ちゃんにまかせなさい」


 こうして銀杏と、ついでに甘酒をゲットした橘さん。
 甘酒は飲めるしはるかは上機嫌だし、言うことなし。


 そうこうしているうちにお社の前に到着。
 賽銭箱にお賽銭を投げ、思い思いになにやら願をかけるはるかと七咲と橘さん。


 「楽しい大学生活が送れますように」


 これははるか。
 まだ大学に受かっていないどころか志望校もふらついていると言うのに……。


 「水泳のタイムが伸びますように。あ、それと、今年も先輩と仲良くできますように」


 これは七咲。
 現実的な願いの端から本音が見え隠れ。


 「正月早々出鼻をくじかれたけど、ひびき先輩と仲良く、できればいちゃいちゃ
 できますように」


 橘さんの願いは切実。
 しかも煩悩があふれ出している。
 今年は受験生なのだから、いちゃつきすぎて受験を棒に振らないといいが……。


 「それじゃ、おみくじを引きに行きましょう。ね、逢ちゃん」

 「ええ、今日の本題、ですね」

 「おみくじを引くのが今日の本題?」

 「ふふ、行けばわかりますよ」

 「そうそう」


 おみくじの行列に並ぶ一行。
 列の向こうでは巫女さん達がいそいそと働いている。


 「うーん、結構こんでるね」

 「そうですね」

 「お正月ですからね」

 「さあ、がんばって大吉を引くわよー」

 「森島先輩、本当に大吉を引き当てそうですね」

 「僕は凶でなければなんでもいいや」

 「クスッ、そう言うことを言っていると本当に凶を引いちゃいますよ」

 「ええ!?」

 「冗談です……と言いたいところですけど、こう言うのって口に出すと本当になるって
 言いますからね」

 「七咲、おどかさないでよ」

 「おどかすつもりはないんですけど…… ふふ、先輩を見ているとつい」


 そうこう話すうちにはるか達の順番がやってきた。


 「えーい」


 気合も高らかにおみくじの箱を振るはるか。


 「……えい」


 意外とかわいらしく箱を振る七咲。


 「ていゃ」


 力のこもった振りかたの橘さん。


 「わお、ほらほら大吉よ!」

 「あ、私もです」

 「……まさか、本当に凶が出るなんて」


 はしゃぐ女の子達を後目に深く深く沈み込んでいく橘さん。
 まあ、日ごろの行いを考えればそんなものであろう。


 「まちひときたらず、起業:ことをはじめるにあし、縁談:しばらくまて…… ううう」

 「あのー、こちらで…… そうそう、ああ、そうですか、わかりました」

 「学業:いまはのびない、恋愛:まてばかいろのひよりあり……かあ」

 「せ、先輩そんなに落ち込まないで下さい」

 「七咲、これを見てどう落ち込まないでいられる? 僕は、僕は……」

 「しょうがないな、それじゃ、橘君に一番効く薬を用意しちゃおう」

 「森島先輩、それってどう言うことですか?」

 「あっち」

 「え?」

 「私の指の先をずーっとたどっていくと……」

 「森島先輩の指の先? ……えーと。え? ええ?? えええええ?????」

 「行ってらっしゃい。私たちはここで待っているから」

 「クスッ……まったく世話の焼けるお兄ちゃんですね」


 はるかの指差した先に、境内を掃除する巫女さんが一人。
 完璧に着こなしたその姿を見ただけでは、彼女がこの三が日だけのバイトとは思えないだろう。
 しかし、橘さんにはひと目でわかったようだ。
 その巫女が、塚原ひびきであることに。
 わき目も振らず駆け出す橘さん。


 「ひ、ひびき先輩ーっ!」


 呼びかけられてびっくり眼のひびき。


 「え? た、橘君? なんでここに??」

 「森島先輩と七咲に誘われて初詣にきたんです。そしたらひびき先輩が掃除しているの
 が見えて……」

 「はるかと七咲が? ……そうか、そう言うことね」


 話はさかのぼって年末。
 ひびきに電話するはるか。


 ……

 「ねえ、ひびき。なんだか声が暗いけど、どうかしたの?」

 「え、あ、うん、まあ……」

 「ははーん、さてはあの子のことね」

 「よくわかるわね」

 「ひびきが言葉を濁す時って、大体橘君がらみだから」

 「うん、実はそうなんだ。さっき初詣に誘われたんだけど、はるかも知ってるとおり
 私はバイトがあるでしょ? それで初詣の約束を断っちゃったんだ」

 「うーん…… そんなことしてるとあの子に逃げられちゃうぞ」

 「わ、わかってるわよ。でも、バイトを断るわけにも行かなくて……」

 「それで暗かったわけか。彼には何のバイトか教えたの?」

 「ちょうどキャッチが入っちゃって……」

 「ありゃ、バッドタイミングだね。うん、もし彼に会ったらフォローしておくわ」

 「ありがとう、はるか」

 ……


 年末のやりとりと、橘さんの向こうに見えるはるかと七咲の姿を見て納得するひびき。
 すべてははるかが仕組んだことだった、と。


 「ひびき先輩、バイトって神社の巫女だったんですか。言ってくれればいいのに」

 「この格好だし、ちょっと恥ずかしくて…… それに、もしどこでどんなバイトって
 話しをして君が来てくれても、こうして話をする時間が取れるかわからなかったし、ね」

 「みずくさいこと言わないで下さい。ひびき先輩の姿が見れるだけでも来る価値が
 あるんだから」

 「……そう?」

 「ええ。それにすごく似合ってますよ。巫女装束。びっくりしました」

 「そう、かな。……ありがとう」


 照れくさそうにはにかむひびき。


 「バイトは三が日だけですか?」

 「うん」

 「そしたら、4日の予定空けておいて下さい」

 「え?」

 「神社は三が日が終わっても逃げないですよ。4日に2人でゆっくり初詣に行きましょう」

 「……ふふ、そうだね。あ、でもいいの? 初詣に2回行くことになっちゃうよ」

 「いいですよ。ひびき先輩と一緒なら何度行っても。頼むことは毎回同じですけどね」

 「……どんなお願い?」

 「え、それは……」

 「言えないようなお願い?」

 「その、いつまでもひびきと仲良くいられるように……って」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……私も同じかな」

 「え?」

 「初詣で神様にお願いする中身」


 照れくさそうに笑う橘さん。
 顔を赤らめながら、でもやさしく微笑むひびき。
 吐く息は白いけれど、そんなことは気にならないくらい2人の心は暖まっていた。


 「うーん、やっぱり巫女姿には勝てないか」

 「振られちゃいましたね……」

 「……さて。ねえ、逢ちゃん。屋台でなにか暖かいものでも食べようか」

 「あ、いいですね。なににしましょう」

 「たこ焼きなんてどうかな?」

 「お好み焼きもありますよ」

 「むむむ、迷うなあ……」



fin. 20090714 


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