アマガミ 響先輩SS   「ひびき先輩はなぜ医者を目指したか〜弟がいた編」



 いつもの帰り道。
 塚原先輩と並んで歩く坂道。
 他愛のない話をしているうちに、兄弟の話になった。

 「そう言えば、七咲には弟がいるんですよね」

 「うん、小学生だって言ってたよ。1年……2年生だったっけかな……」

 「七咲から弟がいるって話を聞いて、ああ、なるほどって思ったんです」

 「ふふ、七咲はしっかりしているものね。弟か妹がいてもおかしくないよね」

 「ええ、意外だったのは森島先輩かな。弟が2人って割にはお姉さんっぽく
 ないなって」

 「はるかはお兄さんがいるから、ちょっと違うのかもね。お姉さんなんだけど
 妹でもあるわけでしょ?」

 「あ、そうか」

 「でも、そうか、こうして考えると家族や兄弟の影響って大きいんだね」

 「そうですね。あ、意外と言えば塚原先輩も意外でした」

 「私が?」

 「ええ、確か兄弟はいないって言ってましたよね」

 「うん、うちはお父さんお母さんとおじいちゃんに私だから……」

 「塚原先輩のしっかりしている部分とか水泳部のお姉さん的な感じを見ると、
 弟か妹がいてもおかしくないなって思っていたんです」

 「そ、そう?」

 「ええ」

 「……そう思ってもらえるのはうれしいけど、そんなにしっかりしている訳じゃないよ」

 「そうですか? 美也に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ」

 「美也ちゃんは彼女なりにがんばっているんじゃない? ふふ、お兄ちゃんなら
 ちゃんと見てあげないと。美也ちゃんがかわいそうだよ」

 「そうなのかな……」

 「身近にいると案外気がつかないものだよ。いなくなっちゃう前にしっかり相手を
 してあげてね」

 「そ、そうですね。美也もいつかは嫁に行くんだろうし、それまではちゃんと
 構っておくかな……」
 
 「お兄ちゃん、がんばれ」
 
 「は、はい」



 「ところで塚原先輩は、どうして医者を目指そうと思ったんですか?」

 「え?」

 「医者になるって、口で言うのは簡単だけどすごく大変ですよね。推薦だって簡単に
 取れるわけじゃないし。だからなにか理由があるんじゃないかって思って」

 「……そっか、君にはその話をしたことがなかったね」

 「ええ」

 「……」

 「塚原先輩?」

 「……私には弟がいたの。ちょっと年の離れた弟が。
 お姉ちゃん、お姉ちゃんって私の後を追いかけてくるすごく可愛い弟だった。
 ワガママ言って私を困らせて、ちょっと怒るとすぐに泣きじゃくって……
 本当に可愛い弟だった」

 「塚原先輩、あの、もしかして」

 「うん、弟は重い白血病になって、病院で一生懸命治そうってがんばったんだけど、
 ちっちゃい身体でがんばったんだけど……」

 「先輩……」

 「……ぐすっ……う、くっ……」

 「……」

 「ご、ごめんね。もうあの子はいないって納得したはずなんだけど、思い出すと
 止まらなくて……」

 「じゃあ、先輩が医者を目指そうと思ったのは」

 「そう、それがきっかけ。あの子の病室に毎日毎日通って、ベッドの横に付き添って、
 でも私はなんにもできなくて、苦しんでる弟になにもしてやれなくて、だから、だから
 医者になろう、医者になって弟のように苦しむ子が減るようにしようって、そう思ったんだ」

 「塚原先輩……」

 「さっき、私に弟か妹がいてもおかしくないって言ってくれたけど、確かに私には
 弟がいたんだ。でも、もういない。きっと今頃は空の上でにこにこしているんじゃ
 ないかな」

 「せ、先輩」

 「なに?」

 「あ、あの、僕でよければ……と言うか僕じゃ足りないかもしれないけど、
 僕で弟さんの代わりがちょっとでもつとまるのなら、弟みたいに扱ってください」

 「……君はやさしいね。うん、大丈夫だよ。はるかがいて、君や七咲がいるから、
 私は一人っ子だけど一人じゃないって思えるから」

 「先輩……」

 「くすっ、それじゃ今から君は私の弟ね。言っておくけど、お姉ちゃんは結構厳しいから」

 「はい、ひびきお姉ちゃん」

 「……あ、も、もう、調子に乗りすぎ」


 こうして塚原先輩がなぜ医者を目指そうと思ったかを教えてもらった。
 先輩に弟さんがいたことも教えてもらった。
 僕が少しでもその代わりになれるといいな。


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このお話は、ひびきスレにアップしたものの再録です。
「なぜひびき先輩は医者を目指したのか」と言う流れの中で、
「ひびきちゃんがまだ小さい時に仲のいい弟(もしくは弟みたいな存在)を病気で亡くしていて」
と言うレスを受けて書いたものです。 


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