お風呂やさん −ちび椎那のつぶやき5−



  お家の近くに 昔ながらの銭湯があります


  銭湯と言うよりは お風呂やさんと呼びたくなるようなそこは

  使い込まれた木の床と高い天井の 本当に昔ながらの建家


  ちひろさんのお友達の職人さんをして しっかりしたいい造り

  と言わしめたそのお風呂やさんは お家に泊まりに来た人のお風呂でもありました


  わたしもなんどか連れていってもらいましたが

  そこはとても落ち着いていて 壁に富士山があれば完璧と言った風情の場所でした




  今日お風呂やさんのお向かいのコンビニまで ちひろさんと買い物に行ったら

  そのお風呂やさんは既になく 瓦礫の山になってました


  昨日 ちひろさんと接骨院に行ったときはあったのに…

  壊すなんてお話し 聞いてなかったのに…



  どうして?

  どうしてなんでしょ?

  どうして 壊されちゃったんでしょ?

  どうしたんでしょ??

  なんで あんな姿になっちゃってるんでしょ?

  どうして

  どうして どうして

  どうしてどうしてどうして……



  気がつくと 見える風景全部がぐちゃぐちゃに滲んでいました

  ちひろさんも その場に立ちつくしていたみたいです


  ちひろさんが キュッと抱きしめてくれました

  お互い 言葉がありません


  近くのお総菜やさんで 焼き鳥を買う子供達

  コンビニから出てくる おばさん


  前を過ぎていく 車やバイク

  すべてがいつもと同じなのに それなのに


  まるで流れる時間に わたしたちだけが取り残されたように

  その場に 立ちつくしていました




  しばらくして 「きっと立て直すんだよ」とちひろさんがつぶやきました

  自分とわたしに 言い聞かせるように


  ここに新しいお風呂やさんが建つのか それとも

  それとも別のなにかが建つのかは わかりません



  わたしの中で 大事ななにかがまた一つ 無くなってしまったように 思えました


fin991107
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家の近所に、うちに夜桜の常連さん達が泊まりに来る度に行く銭湯があります。
昔ながらのしっかりした造りで、泊まりに来る人達の評判も上々のその銭湯が
取り壊されました。
銭湯の経営不振が叫ばれる昨今、致し方ないことなのかも知れません。
(原因は不明です)
でも、あの昔ながらの銭湯が無くなってしまったのは残念でならないです。
ろくに浸かりに行ったわけでもない自分がこう言うことを言うのは
とても偽善チックなのかも知れないですが、それこそ「懐が許すなら毎日でも
浸かりに行きたい銭湯」だったですから。


お風呂やさんの跡地は、駐車場になりました。
ちょっとだけ残念です。

20000409 奈落より再録
20000503 後書きに追記






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