製造立ち会い再び −ちび椎那のつぶやき24−


ちひろさんの出張のお供で 宇都宮に来ています

去年の9月に来たのと 同じ工場です


「今回も製造立ち会いだ」ってちひろさんが言ってましたから

きっとまた ず〜っと暇なんでしょうね


そうちひろさんに話したら ちひろさん苦笑いしてました

「まるで仕事してないみたいじゃないか」って


あうあう そう言うつもりで言ったんじゃないんですけど〜




朝から始まった立ち会いは 順調に進み

一番大事な作業が お昼前から始まることになりました


これから 工場の方が組んだプログラムを元に

”反応”と言う 大事な大事なステップに入るんだそうです


これが始まると あとは制御板のパネルが頼り

うまくいくといいですね




”反応”が始まって 数十分が過ぎたころ

”反応”の中でも一番重要な部分が終わり ホッと一息ついたころ


パネルの数値の異常を 工場の方が見つけました

一定の値に保たれるはずのある数値が どんどん増加して行くんです


ちひろさんや皆さんの間に 緊張が走ります


「冷却は?」
「やってます」


工場の方の緊迫した声が制御室に響きました

普段はつまらないオヤジギャグを連発する方なんですが 今度ばかりは真剣です


「設定上限、こえます!」
「冷却レベルは?」
「60%です。上げますか?」


工場の方のやりとりが 続きます

みなさん 額に汗がにじんでいます


「フル冷却かけて下さい。投入は一旦中止。それでもダメなら反応を止めましょう」


制御板のパネルをじっと見ていたちひろさんが パネルを見つめたまま言いました


「フル冷却。ライン開度100。投入中止」


ちひろさんの指示を聞いて 工場の方がパネルを操作します


パネルの問題の数値は 89を示しています

上限は90 もし95を越えたら反応を緊急停止しなければいけないんです


   89.5,89.7,89.9……


目一杯冷却をしているのに どんどん数値が増えていきます


「90越えます!」


2人居る工場の担当の 若いほうの方がパネルを見つめたまま言いました


   90.5,90.6……


90を越えても 数値の増加は止まる気配を見せません


   93.2…… 93.3……


ちひろさんの額に 汗がにじんでいます

両手を組んで 祈るようにじっとパネルを見つめています


こんな真剣な顔のちひろさんを見るのは 久しぶり

ちひろさん 自分がどうにかできるのならすぐにでも立ち上がりたいんだと思います


でも 始まってしまった反応を制御できるのはこの制御板だけ

そして その制御板にタッチできるのは工場の方だけなんです


あまりに張りつめた空気に わたしは口を開くことができません





   94.2……    94.3……     94.3……


値の増加が 94.3で止まりました

みなさんの口から 安堵のため息が漏れます


「87までこのままフル冷却。87になったら冷却を戻して投入を再開して下さい。
 多分、それで大丈夫でしょう。最初の冷却、もっときつくないとダメみたいですね」


額の汗を拭いながら ちひろさんが工場の方に言いました


「それにしても、小説みたいなことってホントにあるんだなぁ……」


ちひろさん イスにもたれて苦笑い

さすがに疲れたみたいです




立ち会いは まだまだ続きます

9月の時と同じように 夜を越えて明日のお昼まで


ちひろさん がんばりましょうね


fin20010320
----------------------------------------------------------
 2ヶ月ぶりのちびしい日記です。
先日立ち会いに行ったときのお話なんですが、本文中にも
あるようにちょっといやかなりヒヤリとしました。
 この反応、研究所のパイロットプラントで何度も検討したんですけど、
そのときは何ともなかったんですよ。
 まさかこんな風に来るとは思いませんでした。
工場のスケールって、侮れないですね。

 それではまた。



20020614 奈落より再録



リストに戻る。