朝のできごと −ちび椎那のつぶやき25−
 
 
朝の電車での 出来事です


その日は お家を出るのがちょっと遅れて

いつもより 2本遅い電車に乗ったんです


2本違うだけで 混み方が全然違うんですね

いつも乗る電車はガラガラなのに この電車はずいぶん混んでます


わたしとちひろさんは たまたま空いていた席に座ることができました

でも 立ってる人も大勢います


とある駅についたとき 一人の女の人が乗ってきました

ゆったりとしたワンピース 大きなおなか


ひと目でわかりました

もうすぐ お母さんになる人です


その人は ちひろさんからちょっと離れたところに立っています

ちひろさん その人を気にしています


わたしも その人が気になります

奥様がそうだったからわかるんです


おなかの中に赤ちゃんがいるのは とっても大変なこと

だからきっと ちひろさんは席を替わってあげようと思ってるんです


でも 今ここで席を立っても

その人に声をかける前に きっと他の人が席を取っちゃうでしょう


とても 歯がゆいです

わたし以上に ちひろさんは歯がゆいと思います


どうしよう? どうしたらいいんでしょ?

えっと えっと……


わたしがその人を呼びにいっても たどり着く前に踏み潰されちゃうし……

わたしがここに残って 席を確保してればだいじょぶでしょか?


「しいちゃん ここで席を取っておいて」

ちひろさんがわたしにそうつぶやいて 席から立ち上がろうとしたそのとき


「次の駅で降りるから どうぞ」

その人の斜め前に座っていたお兄さんが そう言って席を立ちました


よかった

ちひろさんも ホッとした顔をしています


そのお兄さんは 次の駅で電車から降りていきました

その後姿は なんだかとっても格好よかったです


朝の電車での ちょっとしたできごとでした

fin20010531




20020614 奈落より再録



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