ここはとある会社の研究所。とある研究室の、とある研究員さんの机です。 「くー」 机の上には、文房具やファイリングされた資料と一緒にパソコンが置かれています。 研究所の中にあるごく普通の机の上です。 「くーくー」 パソコンには液晶ディスプレイとキーボード、それにマウスがついています。 この研究所ではごく普通のパソコンです。 「うにゅ、く〜」 その、ごく普通のパソコンのマウスの上に、覆い被さるような形でお人形が寝ています。 先ほどからの寝息の主はこの子。 「あ、あう」 赤いロングの髪の毛、3〜4頭身にデフォルメされた身体。 あれれ、寝相が悪くてマウスからずり落ちたみたいですね。 「む〜 うにゃ」 でもめげません。 ポテッという感じでマウスに抱きつくと、また寝始めてしまいました。 頭身によく合う幼い顔立ちをした、ポケットサイズのお人形。 耳に光る、銀色の独特な形をしたアンテナのようなセンサーが、彼女がセリオであることを物語っています。 え? ポケットサイズのセリオなのかって? そうなんです。この『ちっちゃなセリオ人形』みたいな彼女は、れっきとしたセリオタイプのメイドロボ。 『HM-13 Chibi ちびセリオ』と言います。 そうですね…… ちびセリオの説明をする前に、念のためにセリオの説明から始めましょうか。 セリオと言うのは来栖川電工が開発したハイエンドタイプのメイドロボットです。 型番はHM-13。 同時に発売されたマルチタイプの性能を大きく凌駕するスペックを持っており、他の追随を許さない、メイドロボの最高峰です。 特にサテライトシステムを用いたサービスは従来のメイドロボにはない画期的なもので、データをダウンロードすることで セリオタイプは瞬く間に特定の分野のプロフェッショナルになれるのです。 もっとも、性能が高いだけあってお値段もそれなり。個人が手を出すにはちょっとお高いせいもあって、 主に企業で使われています。 外観は高校生くらいの女の子をイメージしてあり、身長は160cmくらい、整った顔立ちで、赤い色をしたロングヘアーと 耳に輝く銀色の独特な形をしたセンサーをつけているのが特徴です。 セリオについての説明はこの程度で大丈夫でしょうか? それでは、ちびセリオの説明を始めましょう。 ちびセリオは、セリオの発売からしばらくして開発された、携帯用の小型メイドロボットです。 開発コンセプトは『Always Serio in your pockets!! 〜いつもポケットにセリオを』。 セリオの性能を最大限に残したまま、サイズを1/12の大きさまで小型化したのが特徴で、 コンセプト通り胸ポケットに入れることができます。 外観はセリオに準拠しており、赤いロングヘアーも、銀色の独特な形をした耳センサーも一緒です。 ただし、身体が元のセリオとは違っています。 大体3〜4頭身くらいにデフォルメされ、顔立ちも頭身に合わせて少し幼くなっています。 「愛らしくていい」、「とっつきやすい」と言う声が聞かれる反面、「大の大人が持ち運ぶにはちょっと……」と言う声もあり、 外観の評判はそれなりと言ったところです。 また、セリオの最大の特徴であるサテライトサービスですが、残念ながらちびセリオが使う場合には、若干の制限があります。 身体が小さくバッテリに限りのあるちびセリオは、ノーマルの状態では受信のみで送信ができません。 (オプショナルパーツである大容量拡張バッテリ、通称ランドセル、を使えば送信もできるようになります) もっともユーザーにとって送信ができなくて困るのは、せいぜいPHSの代わりとして使えないことくらいですから、 さしたる問題ではないでしょう。 また、通常のセリオの1/12の大きさですから、サービスを行う上で支障が出ることがあります。 身体を使ったサービス、例えば『お茶くみ』や『コピー取り』などを行うことは困難です。 まあ、背中のマッサージくらいはできるかも知れません。 単に背中の上で飛び跳ねるだけですが。 また、元のサイズのセリオと大きく違う部分がもう一つあります。 それがしゃべり口調。 例えば挨拶は…… セリオ 「――○○さん、こんにちは」 ちびセリオ「○○さん、こんにちは〜です〜」 何かものを頼んだ場合は…… セリオ 「――承知しました」 ちびセリオ「わかりました〜」 ……このようにデフォルトのちびセリオはその外観通りの幼いしゃべり方をします。 これまた賛否両論有りまして、全く拒絶する人と手放しで喜ぶ人に分かれます。 発売当初はこの幼いしゃべり口調だけだったのですが、意外に元のセリオのようなしゃべり方を希望するユーザーが多く、 今ではオプションでしゃべり口調を選べるようになっています。 最後にちびセリオの最大の特徴をご紹介しましょう。 ちびセリオはスタンドアローン、すなわち『単体でも動作』しますが、セリオの端末となることもできます。 つまり、自宅や会社のセリオのデータをちびセリオに移し、持ち歩くことが可能なのです。 この機能を使えば、例えば家では家事全般をこなすメイドさん、外ではスケジュール管理などを行う有能な秘書として セリオを活用することができます。 単独でセリオとちびセリオを動作させても同じこと? そうではないんです。 自宅で家事をしてくれるセリオはあなたの好みや癖などを完璧に把握しています。 そのセリオをちびセリオに移すわけですから、あなたのセリオがいつどこででもあなたをサポートしてくれることになります。 これほど心強いことはないですね。 それに、セリオは色々な経験を学習し育っていく学習型です。 自宅のセリオのデータをちびセリオに移して持ち歩けば、今よりいっそう賢くなること請け合いです。 いかがですか? ちびセリオのこと、わかってもらえたでしょうか? 「く〜」 気持ちよさそうに眠るお人形。 赤い髪をした、独特な銀色の耳飾りをつけたお人形。 彼女もそんなちびセリオの一人です。 こんな風に寝てますけど、最先端の技術が詰まったハイテクボディの持ち主なんです。 でも、優秀なちびセリオにも困ったことが幾つかあります。 ・セリオにしてはおっちょこちょいなこと。 ・よく居眠りしたり和んだりすること。 どうやらCPUを小型化した際の影響らしいのですが、これには開発スタッフも首を傾げてるんだそうです。 結局直しようがなくて『仕様』と言うことに落ち着いたんだとか。 だから、こんなことが起きたりします。 「く〜〜」 さっきからマウスに抱きついて眠るちびセリオ。 そんな彼女を、困ったように笑いながら見つめる人がいます。 ちびセリオのマスターさん。 昼休みが終わり『さあ仕事』と思ったら、ちびセリオがマウスの上でお休み中。 起こすのも忍びないし、さりとて仕事はしなくちゃいけないし。 結局キーボード操作だけでなんとかパソコンを操ってるみたいです。 でも、大変そうな割には怒った顔をしてないですね。 むしろ穏やかな優しい顔をしています。 マスターさんの視線の先には、気持ちよさそうに寝るちびセリオ。 その姿は愛らしく、なんだか心が和みます。 きっとマスターさんもそんな風に感じているんでしょうね。 軽くため息つきながら、ちびセリオのほっぺをつんつんつん。 「ふへ、ん〜 く〜〜」 そんなちびセリオを見て、マスターさん、くすっと微笑むと仕事を始めました。 困ったところも有るけれど、それを補って余りある機能を秘めたちびセリオ。 これからお話しするのは、そんなちびセリオのお話です。