6月の花嫁


  6月、梅雨がひと休みしてくれた日。
  わたしは小さい頃からのあこがれの服、ウェディングドレスに身を包み、
  チャペルの控え室でその時を待っていた。


  隣に座る父さんが、しきりに何か話しかけてくれる。
  緊張しないようにと言う、父さんなりの気遣いだって判るから、
  なんだか嬉しくて、そして、少しだけ悲しかった。
  「こんな日なんだから気を使わなくていいんだよ」とお父さんに言ってみる。
  「こんな日だからこそ気を使うんだ」とお父さんはそう笑っている。
  そう、こんな日だからこそ、いつも以上に気遣ってくれる。
  父さんはそんな人だ。
  だからその気遣いがとても、嬉しくて、
  そして、そんな風に気を使わせてしまうのが、少しだけ悲しかった。


  準備が整って、係りの人がわたしたちを呼びに来た。
  父さんのエスコートで、チャペルへと入っていく。
  赤い絨毯のヴァージンロード。
  鳴り響くパイプオルガン。
  正面に見える十字架。
  みんなの祝福の拍手。
  子供の時からの、あこがれの瞬間。
  待ち望んだ、瞬間。
  それなのに、なにかが心の奥に引っかかっている気がした。


  一歩一歩、ヴァージンロードを歩いていく。
  参列してくれた友達の割れるような拍手の音が、どこか遠くのものに聞こえる。
  なんでだろ?
  おかしいよね。
  なんでわたしこんな風に醒めてるんだろう?
  まるでひと事のように聞こえる拍手。
  一番喜ぶはずのわたしが、一番醒めてるみたいだ。


  ふっ、と視線を感じた。
  ちらっとそっちを見てみる。
  そっか、来てくれたんだね。
  うん、来てくれないなんて思ってなかったよ。
  でも、来てくれるか、とても不安だったんだ。


  すぐそこに、ずっと、ずっと想い続けて、
  その想いが届かなかった人の姿が見える。

  そしてその向こうに、わたしのことを想ってくれる、
  多分一番想ってくれる彼の姿が見える。


  これでよかったのかな?
  わたしの中のわたしが問いかけた。

  うん、よかったんだよ。これで。
  そんなわたしに、わたしはそうつぶやいた。


fin000425
-----------------------------------------------------------------------------
ちひろです。
思いつき……ではなく、とある方の話を元に書いてみました。
特にどのキャラ、と言うつもりはありません。
どのキャラにも当てはまるだろうし、どのキャラにも当てはまらないかも知れません。
というか、多分にオリジナル色が強いです。ほとんどオリジナルみたいなもんです。
元になったのは、先日参加した友人の結婚式で聞いた、
「新婦がね。”ほんとにこれでよかったのかな?”って言ってたの」と言うお話し。
彼女、とても好きな人がいたんです。
旦那さんになる人とは別に。
一時期つきあってたことも合ったかな?
でも、色々あって疎遠になって、色々あって今の旦那さんと一緒になったんだそうです。
そんな彼女のお話しです。

いかがでしたでしょうか?
何か思うことがありましたらお教え下さい。



最後に、
桜木さんからこんな一言を頂きました。
「貴方が抱いた感想は、貴方自身の人生への感想です」


ではまた。
追伸:奈落掲載時に感想を下さった皆様、ありがとうございました。


20000507 若干手直しして奈落より再録




リストに戻る。