「とある司令部のものがたり その3 〜ようせいさんと司令〜」


 とある鎮守府のとある駆け出しの司令部。その司令執務室になにやら乾いた音が鳴り響いていた。
部屋にいるのは大佐の襟章をつけたこの司令部の司令と、秘書艦の五月雨、そして……。

 パチリ。

「むむ」

 ……パチリ。

「ふむ」

 パチリ。

「むむむ」

 …………パチリ。

「そうきますか。では」

 パチリ。

「むむむむ」

 ………………パチリ。

「じゃあ、こっちかな」

 パチリ。

「くっ」

 ……………………。

「これでどうでえ」

 パチリ。

「そこ、飛車筋ですよ」
「……なに!? ちょ、ま、まった」
「まちません」
「そこをなんとか、武士の情けで」
「しょうがないですね。じゃあ、まったで。貸しておきます」
「おう、借り一だ」
「あの……。もう借りが五つくらいになってますけど」
「こまけえことは言いっこなしだぜ嬢ちゃん」
「あ、はい……」
「これで……、どうでい」

 パチリ。

「ほう、なるほど。それならこっちで」

 パチリ。

「なにおう」

 …………………………。

「ならこっちだ」
「あ、そこは」
「そこは香車(きょうす)が効いてますね」

 パチ……。

「っと、い、今のなしだ」
「貸し六つ目ですかね」
「いやいや、今のは置ききってないからノーカンだろ?」
「置いていたような……」
「置きましたよね」
「いーや、置いてないぞ。置いてないからこれからちゃんと置くぞ」
「仕方ないですねえ。じゃあ三十秒以内に」
「お、おう」
「……十秒」
「……むむ」
「……二十秒」
「……むむむ」
「……二十五秒」
「……むむむむ」
「……いち、に、さん」
「カウントすなー」
「きゃあ」

 ちゃぶ台を返す勢いで将棋盤をひっくり返す妖精。この子がどうやら工廠長のようだ。

「あー、もう負けだ負けだ、あたしの負けだ」

 飛び散った将棋の駒に目もくれず腕を組みあぐらをかいた妖精がぷいっと顔を横に背ける。

「では約束通り」

 そんな工廠長の仕草を見て、司令がにこりと笑う。

「わかったわかった、次の建造は全力で行くぞ。工廠の妖精の面子にかけて今まで以上のものに
しようじゃねえか。妖精に二言はねえ!」
「わあ、これは期待できそうですね」

 工廠長の言葉を聞いて五月雨が胸の前で手を合わせると期待に満ちた目を向けた。

「そんな目で見るんじゃねえ。照れるじゃねえか」


 司令部発足から早数週。既に何度か建造を行っているが、ここまでのところ四回建造して四回とも
駆逐艦という結果だった。もちろん建造に回せる資材が少ないからと言う理由が大きいのだが、
工廠の妖精が気まぐれで毎回本気を出して建造しているのかどうかあやしいと言う説が鎮守府全体に
まことしやかに流れていた。事実、よその司令部の工廠では最低限の資材で軽巡を建造した例が
報告されている。一説には重巡すら作れるとも言われていた。
 そこで一計案じた司令が賭け事大好きな工廠長に一戦ふっかけてみたのだ。工廠長が勝てば
工廠の妖精達全員に司令のおごりで酒保で一杯ごちそうする。司令が勝てば次の建造は全力本気モードで
やってもらうと言う内容だった。どう転んでも妖精達のやる気につながるからいいだろうと司令は
五月雨に笑っていたが、どうやらその目論見は達せられたようだった。


「では早速明日からよろしく」
「よろしくお願いします」
「目にもの見せてくれよう。これで勝ったと思うなよー。次こそはー」

 工廠長の声が執務室に響いた。どうやら今後も勝負を続ける気らしい。
 

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