「とある司令部のものがたり その9 〜抜錨!〜」


 とある鎮守府のとある新米司令部。ようやく水雷戦隊が体を成し、本格的な訓練が始まろうとしていた。

「おまえたちこれまでどんな訓練してたんだ? 自主トレしてた曙に全然追いつけないじゃないか」

 各人の実力を確認しようと、まずはどのくらい走れるかを確認しようとした天龍だったが……。

「ひ、秘書艦業務であまり訓練できてなくて」と五月雨。
「あたいはちょっと足ひねっちゃって」と涼風。
「なんて屈辱。次は追い抜いてみせるんだから」これは叢雲。
「……」こっちは霰。
「あんたたち大したこと無いわね。弱すぎよ」と曙。

 どうやら曙以外は基礎からみっちりと訓練する必要がありそうな状況だ。そんなこんなで
出撃に向けた訓練が始まった。

 ○基礎体力の育成
「これくらいの走り込みでふらついてちゃ海の上で踏ん張れねーぞ。追加であと五周!」
「は、はいっ」

 ○砲雷撃技術の向上
「止まって撃ってるんだからきっちり当てろよ。初弾の結果が二弾目に活きてないぞ」
「すまねえ、親分」

 ○各艦の連携
「てんでバラバラに動いてどうする。それじゃポイントに追い込むどころか逆に囲まれるぞ」
「わ、わかってるわ」

 ○装備の手入れ
「いざという時に弾がでないじゃ困るからな。訓練が終わったらしっかり掃除して
しっかり磨けよ。ピッカピカにな」
「……ん」

 ○身体作り
「飯はしっかり食え。身体作りは基本中の基本だ」
「もー、こんなにたくさん食べられない。これもクソ提督の仕業ね」

 ○事務作業
「この書類は書式が複雑なので、書く場所を間違えないようにしてくださいね。あとこっちは……」
「わ、わかった。わかったよ」

 そんなこんなの日々が続き、五月雨達駆逐艦は日に日に練度を上げていったのであった。


「そろそろ、いけそうだな」

 訓練の様子を見に来た司令が横にいる天龍に声をかけた。

「そうですね。ま、それなりにやれるんじゃないですか」
「そうか。それじゃ全員昼食後に執務室に集合だ。初陣の作戦会議と行こうじゃないか」
「了解。いよいよか……」

 目の前を走る駆逐艦達にあと三周と檄を飛ばした天龍は、自分も駆逐艦達に混じって
走り始めた。

 昼食後。司令執務室。

「ではこれより作戦について説明する。五月雨、頼む」

 司令がそう切り出し作成詳細の説明を五月雨に任せた。

「はい、本作戦は、私たち全員の初陣です。天龍さんを旗艦に、総勢六隻による水雷戦隊を
編成し、まずは鎮守府近海に出没する敵を掃討します。その後防衛ラインである南西諸島まで
進出、燃料の輸送ラインの確保等を行う予定です」
「鎮守府近海は敵駆逐艦が中心と聞いているが、油断は禁物だ。天龍を中心にしっかり頼むぞ」
「はいっ」
「資源の確保ができれば、司令部の状況も好転する。だが無理は禁物だ。必ず生きて帰れ」
「はいっ」
「ふふ、いい顔つきになったじゃねえか」

 駆逐艦達の顔を見てにやりと笑う天龍。

「なにか質問はありますか? なければこれで解散します」

 五月雨の声に全員が席を立ち、司令に向かって敬礼した。司令は返礼し全員の顔をよく
眺めたのちに手を下ろした。

「よし、おちびども、全員待機所に駆け足。詳細を打ち合わせた後、出撃するぞ」

 天龍の声に待機所に向かって駆け出す駆逐艦達。やる気は十分だ。

「天龍水雷戦隊、抜錨!」
「おう!!」

 かくして一行は鎮守府近海に侵入してくる敵艦の掃討を始めたのだった。

「偵察は曙と叢雲。足の早いのを活かして頼むぞ」
「了解!」
「残りは周囲警戒」
「了解!」

 目をつむってもできるくらいまで身体に染みこませた機動。しばらくして偵察の二人が
戻ってきた。

「敵影発見。軽巡一駆逐三」
「よし、いくぞ、おちびども。単縦陣。オレに続け! 蹴散らすぞ」
「おーっ」

 鎮守府周辺海域掃討戦に明け暮れる天龍水雷戦隊。
 やがて、強大化する敵勢力を前に水雷戦隊だけでは歯が立たなくなり、司令部に重巡や
戦艦、空母などが着任することになる。執務室に金時飴と英国紅茶と加賀まんじゅうが
飛び交い、新たに着任した艦娘に秘書艦を押しつけようと五月雨が迫りまくった結果、
天龍たちが遠征艦隊として退屈な日々を過ごすようになるのは、しばらく後の話である。


「なあ五月雨、おまえ本当に秘書艦を加賀に譲って良かったのか?」
「天龍こそ、主力艦隊に残らなくて良かったんですか? こっちに来たら夜戦できなくなりますよ」

 待機所に向かう天龍と五月雨。

「ばか、オレはいいんだよ」
「そうですか。私も、これがいいのだと思います」

 二人は新たに編成された遠征艦隊に配属されたのだ。

「そうか」
「ええ」

 二人だけではない、涼風も、叢雲も、曙も、霰も一緒だ。

「よし、じゃあ行くか。遠征に」
「はいっ」

 晴れやかな顔で五月雨が笑う。

「よしいくぞ、おちびども。天龍遠征艦隊。抜錨!」
「おーっ」

fin
 

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