ゆうぐれどきのそら
 
 
 
シャーッ カチャン
ドアのカーテンを開いて、鍵をあけます。

抜けるような青空、今日もいいお天気。
軽くのびをして お店の前のお掃除から始めます。

バタバタバタ・・・・
こっちに手を振りながら、近所の子が学校に走っていきます。

そろそろマスターの起きてくる時間。
手早く開店の準備を整えます。

カラカラカラカラ・・・
窓を大きく開けて 朝の日差しと風をお店の中に迎え入れた頃・・・

トントントン・・・ ガチャ
8時過ぎ、いつもの時間にマスターが起きてきました。

すぐに朝食を済ませて、。
マスターが準備している間に洗い物です。

クルン 扉の札を”OPEN”にかえて・・・
準備OK あとはお客さんがくるのを待つばかりです。
 

わたしの名前は椎那。
マスターのお店でお手伝いをしているメイドロボットです。

わたしがお店を手伝うようになって かなりの年月が流れました。
もう何年になるかしら? お店をマスターが継いだときからだから・・・

そんなことを考えながら お客さんのいない店内を見回していたら、
マスターがお茶を入れてくれました。

ふうわり漂う紅茶の香り。
やわらかな日差しと さわやかな風のあふれる店内。

マスターとのおしゃべり、お店のこと、ご近所のこと、そして昔のこと。
時代の夕凪と言う言葉通りの ゆったりとした時間が流れていきます。

・・・
・・・

お店の中に差し込む日差しが どんどん短くなってきて
どこからか聞こえてくる台所仕事の音。

もうこんな時間。
そろそろお昼の支度です。

結局、午前中はお客さんが来ませんでした。
 

お昼をしばらく過ぎて お客さんがやってきました。
ご近所のおばあちゃん。

おばあちゃんのお相手は いつも決まってわたし。
近々 お孫さんの結婚式がある、と 目を細めています。

一通り済んで話をしていたら マスターがお茶を入れてくれました。
おばあちゃんの好きな煎茶。ちょうど飲みごろです。

おばあちゃんがにこにこしながら月餅を包みを広げています。
ちょうどお茶の時間ですね。
 

いつからでしょう、お客さんがわたしを、と指名するようになったのは。
いつからでしょう、ロボットだと言うだけで毛嫌いされなくなったのは。
いつからでしょう、わたしが人間らしく振る舞おうと気負わなくなったのは。

暮れゆく夕日を わたしはおばあちゃんと ずっと見ていました。
 

クルン

扉の札を”CLOSED”に変えます。
午後7時 閉店の時間です。

結局今日きたお客さんは おばあちゃん一人。
マスターが 腕が鈍る と嘆いています。

サインポールのスイッチを切って、床を掃き、モップをかけます。
向こうではマスターが 鋏とくしと剃刀を片づけています。

これから お夕飯の支度です。
今日は なにを作ろうかな?

fin

980904改訂

 
 
 
 
 
 
 
 
 
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