マスターと一緒に遠出した　帰り道

お家に向かって　車を走らせていた時のことです
 

向こうの空に　カミナリ雲が見えてきて

あたりが暗くなってきた……と思ったら
 
 
 

　パッ　パッ

と空が光り
 

　ドーン

と雷鳴がとどろきました
 

そして　バラバラという音と共に大粒の雨……

雨はあっと言う間に強くなると　あたりを水しぶきで覆ってしまいました
 

ワイパーも効かないくらいの　雨

フロントガラス越しの景色が滲んでしまうような　そんな雨です
 

アクセルを緩めて　ゆっくりと走ります

いつでも止まれるように　気を付けます
 

道ばたの野原や畑も　あっと言う間に水浸し

まるで川の中を走っているような　そんな感じです
 
 
 

雨はどんどん強くなっていきます

しまいには　すぐ目の前も見えないくらいになりました
 

このままだと向こうから来る車にぶつかったり　道から飛び出したりしそう

ハザードを出して　道端に車を止めます
 

「雨足が弱まるまで待ったほうがいいですね」　とわたし

「まあ、しょうがないな」　とマスター
 

今のわたしたちにできることは

２人して恨めしげに窓の外を見るくらいです
 
 
 

カン　カン　カン……

バチ　バチバチバチ……
 

ありゃ？　なんだか雨とは違う音が聞こえ始めました

フロントガラスの向こう側で　なにか白いものが跳ねています
 

「ありゃりゃ、あられまで降ってきたか……」

マスターが　苦笑いしています
 

「あられ……」

わたしは　あられを見るのは初めて
 

「こっちのほうはたまに降るって聞いてたけど、ホントに降るとはな」

そう言って　マスターがほっぺをポリポリかいています
 

バチバチと　音を立てて降るあられ

直径１ｃｍくらいの氷の粒が　辺り一面に降り注いでいるんです
 

なんだか車の天井を　破りそうな勢い

ちょっとだけ怖いような　そんな気がしました
 

「ま、直に止むよ。通り雨だから」

マスターは助手席のシートを倒すと　そんな風に言いました
 

……そうですね　こう言うときは慌てず騒がず待つのが一番

わたしも一緒になって　シートを倒してみました
 

バチバチ　バチ　バチバチバチ

ザーー　ザッザッ　ザーーーーーーー
 

不思議ですね

こんなに激しく降る雨やあられにも　リズムがあるような気がします
 

降り方が　強かったり弱かったり

間隔が　広くなったり狭くなったり
 

強さや間があいまって　まるで一つの曲のようです

わたしの思い過ごしでしょうか？
 
 
 

「それにしてもすごいですね」

「ああ、凄いだろ？」

「わたし、こんなの初めてです」

「オレもずいぶん久しぶりさ」

「帰り道で、よかったですね」

「全くだな。ちょっとくらい遅くなっても構わないしな」
 

……車の天井を見ながら　そんな会話

激しいけど決して嫌な感じのしない雨音を　２人で聞いていました
 
 
 

しばらくして
 

バチバチと言う音が　カンカンと言う音にかわり

そして　普通の雨音に戻りました
 

ほんの数十分の出来事です
 

雨足はどんどん弱まっていき　外の景色が見えるようになってきました

そろそろ　走り出せそうです
 

「それじゃ、出発しますね」

ウインカーを出して　走り始めます
 

雨はまだ降っていて　道は川のようです

水を被らないように　慎重にハンドルを握ります
 

「安全運転でな」　とマスター

「もちろん」　とわたし
 

どんどん明るくなっていく空の下を　お家に向かって走ります
 
 
 

しばらく走ると　雲の切れ目が見えてきました

向こうには　青空が広がっています
 

雲の下を抜け　あたりにお日様が戻ってきたとき……

「椎那、見てごらん」　と言うマスターの声が聞こえました
 

助手席の窓の　向こうの空を指しています

そこに見えたものは……
 

「虹……　きれいですね」
 

車を止めて　マスターと外に出ます

雨上がりの空気の匂いが　します
 

マスターが指差した　向こうの空には

大きな大きな虹が　くっきりと浮かび上がっていました
 

こんなに大きくて　

こんなに鮮やかな虹は　久しぶり
 

「きれいですね……」

虹を見上げながら　そうつぶやきます
 

くっきりとした鮮やかな虹の外側に　ちょっと薄目のもう一つの虹

二重の虹が　雨上がりの空に映えています
 

あんなにも激しい雨とあられの後だから

こんなにも素敵な虹になったのだと思いました
 
 
 

激しいあられと　鮮やかな二連の虹

自然のすごさと美しさを感じた　そんなお出かけの帰り道でした
 

fin20000524