Do You Remember...
 
 
 
カンカンカンカンカン・・・・・

ハァハァハァハァ・・・・

カンカンカンカンカン・・・・・

冬弥は展望台に通じる長い階段を駆け上がっていた。
由綺を、捜すために。

カンカンカンカン、トン。

ハァハァハァハァ・・・・

たどり着いた大展望台。
いつもなら宇宙(そら)が一望できる大窓は、
第1級緊急警報のために閉まっていた。
辺りを見回す冬弥。
人影は、見えない。
展望台を奥に向かって歩いていく。
いつもならカップルで賑わうベンチも、決戦を控えた今は閑散としている。
ここじゃないのか?
一瞬自分の判断を疑う。
しかし、冬弥には確信があった。
由綺はきっとここにいると。

思い出をたどりながら、冬弥は由綺の姿を捜した。
確か展望台の一番奥に街と宇宙(そら)を見渡せるベンチがある。
二人で夢を語ったベンチが。
冬弥は再び走り出していた。

二人の思い出の場所。
そこに由綺は・・・いた。



由綺は絶望と孤独感に泣いていた。
彼が選んだのは彼女。
その事実が、心に重くのしかかっていた。
どこをどう歩いたのだろうか?
冬弥の部屋を飛び出て、いつしか由綺は大展望台の、
二人の思い出のベンチに来ていた。
緊急警報を示すサイレンが鳴り響いているが、
そんなことはもう、どうでもよかった。
由綺はベンチに座ると「きっと冬弥くんは来てくれる」そうつぶやいた。

じりじりと過ぎる時間。
気を紛らわそうにも、宇宙(そら)の見える大きな窓には
無粋なシールドがかけられていた。
街は警報とともにネオンが消え、静まり返っている。
自分はひとりぼっちなんだ、そういう想いが心に満ちてくる。
期待と不安と孤独感に心が消えてしまいそうになって、ふっと視線をあげると
そこに冬弥が・・・いた。



胸がいっぱいになって、言葉にならない由綺。
「・・・来て、くれたんだ。・・・・・わたしのために、来てくれたんだ。」
泣き出しそうになりながら、冬弥に向かってつぶやく。
しかし、待ちこがれた男の口から出た言葉は、由綺の期待を大きく裏切るものだった。

「・・・君に、この歌を、歌って欲しい・・・」

意を決したように、しかし、かすれた少し弱い声でつぶやくと、
冬弥は一枚の便せんを由綺に差し出した。
そこには「PowderSnow」というタイトルと歌詞が書き込まれていた。

「え・・・・・?!」絶句する由綺。

あなたはわたしを選んでくれたんじゃないの?
どうして?どうして・・・・
そんな思いが由綺の頭の中を駆けめぐる。

「なんで・・・どうして・・・」

言葉にならない。

「ここにいるみんなのために、歌って欲しいんだ。みんなを救うために。」

冬弥がさっきよりも強い口調で言う。

「なんで・・・なんでわたしが理奈ちゃんの作った歌を歌わなくちゃいけないの?」

由綺は泣いていた。
ついさっき、冬弥の部屋で彼が選んだのは、由綺ではなく理奈だった。

「なんで、みんなのために歌わなくちゃいけないの?
みんながどうなったって、そんなのどうでもいいじゃない!」

うつむいて、泣きながら由綺は言った。
彼女の心の叫びだった。

「それよりも、そばにいて。どうせ助からないんなら、冬弥くんのそばにいたい・・・」

パシッ

そう言った刹那、冬弥は由綺の頬を叩いていた。

「え・・・?」

頬を押さえ冬弥を見る由綺。
その姿は叩かれた由綺よりも痛々しげに見えた。
心の中で冬弥も泣いている。
由綺にはそう思えた。

「マスターも、彰も、みんな死んじまった。やりたいことだってあっただろうに・・・」

うつむいて、つぶやくように冬弥は言った。

「由綺にはまだ歌があるじゃないか!みんなを救うことのできる歌が、あるじゃないか。」

歌は好き。
歌うことも好き。
歌うこと、今わたしにできること、そしてみんなが必要としていること。
由綺は自分のラジオDJに寄せられたみんなの声を思い出していた。

「戦争で死んだ彼を返して。」
「地球に帰りたいよ〜」
「パパ、ママ、どこにいるの? おじさま〜?」

戦いによって傷ついた人達の声。
悲しい声。

「ごめんね。冬弥くん。」

何かを吹っ切ったように由綺は微笑んだ。

「わたし、もう歌を歌わないなんて、いわない」

そう、わたしは歌が好き。
その歌で、冬弥くんを、みんなを幸せにできるなら・・・
だから歌おう。
それが誰の歌だろうと、そんなことは関係ない。

「わたし歌うわ。思いっきり!」

由綺は笑顔でそう叫んだ。



ブリッジ下の特設ステージ
今一度歌詞を読み返す由綺。

「この歌を歌うことができるのは、あなただけ」

歌詞の最後に書かれた理奈の文字。
歌詞カードをたたみポケットに入れる。
流れ出すイントロ。

今、人類の命運は彼女の歌にかかっていた。


粉雪が空から やさしく降りてくる
手のひらで受けとめた 雪がせつない

どこかで見てますか あなたは立ち止まり
思い出していますか 空を見上げながら
        ・
        ・
        ・

後に「由綺アタック」と呼ばれる作戦の幕が、今、切って落とされたのだ。

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あとがき。

 このお話は奈落に投稿したものを収録したものです。
 文芸部に収録されるにあたって、若干手直ししました。
 今、読み返してみても「勢いって怖いなあ・・」と思います(汗)
 一応、マクロスぱろになるんかしら?
 以下、当時のあとがき・・・

 ごめんなさ〜い。もうしませ〜〜ん。
 わかる人はわかるように、マクロスです。はい。劇場版です。ええ。
 若干”MissDJ”入ってます。
 構想は前からあったんです。思わず勢いで書いちゃいました。
 だから、セリフ回しも結構適当です。心理描写も勝手に考えたものですし・・・
 ちなみにPSの感想部分で英二さんが登場してキスして去っていきます(^^;
 でわでわ〜〜☆

 
 
 
 
 
 
 
 
 
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