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        甦る半世紀前の音
                   ―LPレコードのデジタル化―

 音楽を聴く事は趣味と云える程ではないが昔から好きだった。 子供の頃家に戦前の手巻
蓄音機と称する機械があり、SPレコードと呼ばれるものが十枚程あった。 戦後は生活が
たいへんで親もレコードどころではなかったので昔のレコードだけだった。 
その頃家にあったのはクラシックではスッペの軽騎兵序曲、タンゴのア・メディアルス、その他
軍歌だったと思う。 高校に入学すると同級生に町の医者の息子がおり、或時彼の家に行ったら
部屋の壁二面が全て天井迄SPレコードの棚になっており非常に衝撃を受けた記憶がある。 

  1965年に大学を卒業し就職すると最初の冬のボーナスで家具の様なステレオセットを購入し
寮の狭い個室に押し込んだ。 その頃はSPから既にLPレコードの時代になっていたが一枚が
月給の一割以上もするため、おいそれと買えるものではなかった。 数枚しか買った記憶がなく
タンゴとかシューベルトの未完成交響曲だった様な気がする。 

  70年台前半ニューヨークに転勤する事になり、レコード(LP)が安く買える事がわかった。
感覚的には日本の一割から二割である。 サム・グーディーと云う大きなレコード屋が四十二丁目
にあり、毎週日曜日の新聞に今週はRCA、今週はコロンビア、今週はドイツグラモフォンの
ディスカウントセールがあるよと広告を出していた。そんな調子であるから少し宛買っていたが
三年間に二百枚以上になった。 最近整理して見たらクラシック
150枚とイージーリスニング
(映画音楽、ラテン、ジャズ等)が
70枚程である。


  今昭和歌謡と云うジャンルの歌謡曲がしばしばTVで流されており、良い歌が沢山あった
のだなと思うが、その当時は殆ど聞く暇もなかったし良さも分らなかったと言うのが本音である。
 この昭和歌謡の時代が当にニューヨークで買い集めたイージーリスニングのレコードの時代に
重なるのも不思議な縁である。マントヴァーニ、パーシー・フェイス、ウェルナー・ミューラー
(別名リカルド・サントス)楽団等60年代から70年代初めにかけて活躍し、日本でもたいへん
有名になっていた。 
  

  件のレコードはレコードプレイヤーが随分昔に壊れたので再生のしようもなく長い間
押入れで眠っていたが、ふと聞いて見たくなり最近プレイヤーを購入した。 二万円もしないが
デジタル化してUSBメモリに録音できる機能も付いている。 レコードからのアナログ音に
比べると若干高音部が物足りないが、それ程のマニアでもないので聴くに十分なデジタル音が
得られる。 一旦デジタル化すれば編集して手軽にパソコンやウォークマンで聞く事ができるし、
気に入った曲を集めてCD化して楽しむ事もできる。
 

  その頃流行っていたイージーリスニングは、引き潮(Ebb Tide)、ゴッドファーザー
Theme from the Godfather)、ロメオとジュリエット(Theme from Romeo & Juliet)、風と共に去りぬ
Tara’s Theme)等だったと思われ、色々な楽団の演奏がレコード化されている。 皆一流の楽団で
あり、メロディーは一緒でも楽器の使い方が違うので雰囲気が異なり飽きが来ない。 中でも特に
印象に残ったのは、引き潮ではフランク・チャックスフィールドが曲の前後に波の音とウミネコの
啼き声を入れている事、ゴッドファーザーではフランク・プールセルは和太鼓の様な音の楽器を使い
リズムを取り、神秘的な感じが良く出ている事、タラのテーマでは何と云ってもパーシー・フェース
の演奏が冒頭から広大なアメリカ大陸を連想させる。 
70枚のイージーリスニング系レコードはこの
二ヶ月程で全てディジタル化が終わった。 気に入った曲を数枚のCDに編集し、友人達にプレゼント
し喜ばれている。
(20161013)

USB付きレコードプレイヤーと編集用パソコン 編集してCD化(画像クリックで拡大)