リストに戻る。
 
 
 会議のあと、俺がしーなを送っていくのが日常化しつつあった。
 冷やかされながらのおまけ付きではあるものの……。
 

 会議後日談 ―ゆきのよるのあたたかさ―
 

 白い息が弾み冷たくたたずむ空に消えていく。冬の訪れを感じさせる、そんな夜。

 「冷え込んできましたねーっ」
 のんびりとした口調でしーながつぶやく。
 暖房に守られた部屋から出ると、十分な冷え込みを感じる。もうそんな季節になっていた。
 「あーあ、やだなぁ、雪は……」
 重機の暖気に時間がかかる。バランスをくずしやすい。パーツのクリアランスが狂うから消耗部品の交換頻度も上がる。同じ動きをするのにも燃料を食う……憂鬱だ……。
 くるんと回るしーなに合わせて白い輪が一周する。
 「私はこの季節、好きですよ。あったかいんですー」
 「かぁ〜、このクソ寒い季節が暖かいかよ」
 背中を丸め、手をポケットに突っ込む。だが、染み込む寒さは容赦無く街を包む……人の都合なんかお構いなしに。
 「はい……あ」
 しーなが言葉と歩みをいっしょに止めた。
 「……寒いんだからさっさと帰ろうぜ?」
 「寒いわけですねーっ、ほら」
 かざした手に、手よりも白い、小さなかけら。
 冬の足音が音もなく空から舞い降りてくる。見なれた街がゆっくりとでも白に染まっていくような、そんな穏やかな降り方。
 「降ってきやがった」
 『ろまんちっく』な世界に浸ってる風のしーなを無視して、俺は思わず毒づく。
 「ほら、さっさと帰るぞ」
 「えー? もう少しいいじゃないですかー」
 うっすらと雪の積もった道を、さくさくと音を立てながら歩くしーな。俺は滑らないように気を付けながら歩いて……
 「うきゃっ!?」
 予定通りこけそうになるしーなを支えてやる。
 「あ、ありがとうございます」
 「足元注意だぞ、雪用の靴じゃないんだから」
 「あははーっ、そうですねー」
 かくいう俺も雪対応の靴じゃないんだが……
 「ほれ、さっさと自立する。支えるのも軽かぁないんだぞ」
 「す、すみませんーっ」
 そうしてまた、歩みを再開する。しーなが前を、俺が後ろを。

 いつからこういう風に歩くようになったんだろう。
 背中を預けられる相手がいて、横に並ぶ相手がいて、和気藹々とジョークのひとつも飛ばす仲間がいて。
 俺は一匹狼じゃなかったのか、と問い掛けてみても、答は雪に消えて帰ってこない。
 おそらくは、雪に消えなくても帰ってこない。

 「どうした?」
 急に歩みを速めたしーなに聞いてみる。
 「あははーっ、もう1枚羽織って来るべきでしたー」
 「……言ったろ、寒いって」
 予想通りの答え。
 「予想以上でしたーっ……くしゅっ」
 小さなくしゃみ。
 「そっか。じゃ、ここで俺帰るわ」
 「……はえ?」
 「ここで折り返したほうが部屋まで近いんだ」
 「そ、そうじゃなくて、このジャケット」
 「風除けだよ。寄り道しないで風邪引く前に帰れよ?」
 しーなの肩には、今だけ主を変えたあまり厚くない俺のジャケット。
 こんな日くらいは風邪なんか引きそうもない俺なんかより、しーなに使ってもらったほうがジャケットとしても本望だろう。
 「でも、DDさんは?」
 「体力馬鹿は風邪引かねぇもんだ」
 いつでもジャケットをつき返すような勢いのしーな。そんな風邪っぽい娘に背を向けて、俺は家路へと急ごうとし……

 「ほら、やっぱりあったかい」
 しーなのつぶやきは、俺の背中に届くわけもなく。

 「ったく……」
 とつぶやく俺の声は雪にかき消されて。

 苦笑しながら見上げた空から、ひらひら舞い落ちる雪。

 これだから雪は……。
 …………えっきしっ!

                                                                      ....End?
 


「アミアとしーな」へつづく      リストに戻る。