「とある司令部のものがたり その0 〜遠征艦隊がゆく〜」


「おーい、周囲に異常はないかー?」

 遠征艦隊の先頭を行く軽巡洋艦天龍が僚艦に声をかける。

「右前方、異常なしです」
「左前方も異常なしっ」
「右後方、異常ないわ」
「左後方、異常ないよ」
「……後方異常なし」

 天龍の声に補給艦の周囲を取り巻くように陣取る駆逐艦達が返事を返す。
 順に五月雨、涼風、叢雲、曙、霰。
 先日まで水雷戦隊を組んで鎮守府近海や南西諸島海域の掃討に当たっていた
仲間達が水雷戦隊ごと遠征艦隊に鞍替えし、こうして護衛任務に就いているのだ。
 とは言えこの海域は彼女たちが制圧し制海権を握った場所なので、遠征任務で
輸送の護衛と言っても実はあまりやることがない。
 不意に敵の潜水艦や水雷戦隊が出てこないとも限らないのでこうした護衛は
必須だが、敵が現れないことが多く、結果天龍達は暇をもてあますことが多かった。

「……暇だな」

 天龍が呟く。

「そうですね」

 苦笑交じりに五月雨が返す。そんなやりとりがお決まりとなっていた。

「そういや、オレが来る前の司令部ってどんな感じだったんだ?
五月雨は最古参だから知ってるだろう?」
「そうですね。司令が赴任する少し前から着任して準備をしてました」

 ふと思いついたように天龍が五月雨に声をかけた。

「そうなのか。司令の着任……か」
「はい。優しく抱き止めてもらいました」

 思い出すように五月雨が言う。ちょっとうれしそうだ。

「なに!? それってどういうことだ」
「そいつぁ初耳だねえ」
「せ、説明なさい」
「どうせあのクソ提督に騙されてるだけよ」
「……」

 五月雨のちょっとした言葉に静かだった艦隊が色めき立つ。

「さて、説明してもらおうか」
「え、えーと……」

 遠征艦隊はどうやら今日もつつがなく任務に勤しんでいるらしい。 



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