「とある司令部のものがたり その5 〜五月雨と天龍と〜」


 とある鎮守府のとある司令部の酒保。司令と工廠長と工廠妖精達が天龍建造を
祝して酒盛りをしていた。司令がおごりを宣言したので妖精達はみな上機嫌だ。

「いやいや、こんなもんよ」
「この調子で今後もよろしく頼みますよ」

 上機嫌の工廠長に、何回目かなこのやりとり、と言う顔で司令が返す。

「この勢いで軽巡ばんばん建造しちまうぞー。なあ、おめーら」
「おうっ」
「その意気その意気」

 どうやら工廠の妖精達はやる気モードに入ったらしい。その勢いでついでに
重巡クラスも作って欲しいものだ、と司令は思うのだった。


 そんな酒保の一団に向かって黒い塊がものすごい勢いでやってきた。天龍だ。
天龍が五月雨を小脇に抱えて血相変えてすっ飛んできたのだ。

「おお、天龍じゃないか。司令部内の案内は終わったか?」

 コップ酒を傾けながら司令がのんきに問いかける。

「司令、一体全体どういうことだ」

 小脇に抱えた五月雨をポイッと司令の方に投げると、天龍は真顔で問いかけた。

「ん? どういうことと言うのはどういうことだね?」

 事の次第がわからず司令が首をかしげる。

「司令、実は天龍さんが秘書艦を引き受けてくれなくて」

 ポイッと投げられて司令の膝の上に乗っかった五月雨が困ったようにそう言った。

「秘書艦?」
「はい、天龍さんは軽巡です。私よりも艦種が上ですから、当然天龍さんが艦隊旗艦と
なり、ひいては秘書艦も勤めるのが道理かと」

 ふむ、と司令が考えるような仕草をした。

「なるほど、確かにそうだな。さすが五月雨よく気がついた。えらいぞ」
「えへへへ」

 五月雨の頭をなでる司令。我が意を得たりとうれしそうに笑う五月雨。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。秘書艦って言うのは最古参の艦がやるもんじゃ
ないのか?オレは今日来たばかりで右も左もわかってないんだ。そんなのに秘書艦が
つとまるわけが」

 慌てて口を挟む天龍に、司令がコップを置き居住まいを正して向き合った。
自然と天龍の背筋が伸びる。

「第一艦隊旗艦タル艦娘ヲ以テ秘書艦ヲ兼務セシムベシ、とあるんだよ」
「そんな規定が……」
「我が司令部はご覧の通りまだまだこれからだ。軽巡も君しかいない。天龍。君には
駆逐艦達をまとめて水雷戦隊を率いてもらいたいと思っている」
「それは望むところだ」
「水雷戦隊を率いると言うことは艦隊旗艦だ。我が司令部にはまだ第一艦隊を組むだけの
戦力しかない。すなわち天龍が第一艦隊旗艦であり、秘書艦と言うことになるんだ」

 諭すように司令が天龍に説明する。その目は天龍の顔を見据えて動かなかった。

「水雷戦隊を編成し、彼女たちを率いて、鍛えてやって欲しい」
「……わかった。わかったが駆逐艦達を相手して秘書艦もは荷が重い、五月雨を補佐に
つけて欲しい。彼女は最古参だ。うまくまとまると思う」
「いいだろう。よろしく頼む」
「了解っ」
「了解です」

 司令は二人の敬礼に返礼すると置いておいたコップから冷や酒をうまそうに飲むの
だった。


 後日。

「天龍さん、例の書類できてますか? 今日提出ですよ」
「え? 例の?」
「……わかりました。こっちで出しておきますね」
「天龍さん、ひとさんまるまるからの会議ですが、資料は」
「会議!? あー、忘れてた」
「そんなことだろうと思ってもう作ってあります」
「天龍さん」
「あー」
「天龍さん」「天龍さん」「天龍さん」
「わああああああ」

 結局艦隊が陸にいるときは五月雨が秘書艦を勤めることになったそうだ。
 

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