「とある司令部のものがたり その7 〜曙捕獲作戦〜」


「さて、どっからどう探そうか」

 しばらく走ってから天龍が立ち止まってそう言った。

「こ、これだけ、走って、からそれ、ですか?」

 叢雲が息絶え絶えにそう返す。他の駆逐艦達も概ねそんな感じだ。天龍一人が
涼しい顔をしている。

「おまえらこのくらいでへばってるようじゃ、もうちょっと鍛えないとダメだな」
「さすが軽巡、ですね。はあ、はあ」
「すげえなあ、親分」
「誰が親分だ」

 一見じゃれてるようなそんなやりとりの後、天龍が今後の探し方を提案した。

「このままじゃ埒が明かない。オレと叢雲と霰、五月雨と涼風の二手に分かれて
探そう。急がねえと本当に昼飯抜きになりそうだ」
「了解」
「五月雨隊は工廠の方向、オレの隊は食堂方向、三十分後にここに集合して情報交換。
かかれ」

 天龍の声とともに状況を開始する二隊。天龍隊は食堂方面へ向かい、影になりそうな
隠れるのに適した場所を探していった。しかし、曙の姿も痕跡も得られなかった。

「時間だ、一旦集合場所へ……」

 そう天龍が言いかけたとき、集合場所の方から声が聞こえた。一人の艦娘が目の前を
駆け抜けていく。

「待ってー、待ってくださいー」
「待ちやがれってんだー」

 聞こえてきたのは五月雨と涼風の声だった。目の前を通過していったのが曙なのだろう。

「オレたちも追うぞ」

 天龍も五月雨の後を追って走り始めるが、角をいくつか曲がっているうちに曙の姿を
見失ってしまった。

「もう走れないわ」
「疲れたー」

 その場にしゃがみ込む駆逐艦達。天龍も息を整えている。

「意外とすばしっこいな」
「……うちの艦娘の中では一番」
「諸元的には私も負けてないわ」
「負けてない、じゃ追いつけないんだよ。むしろ引き離されてたから練度が違うって
ところか」

 そんな風なやりとりの後、追いかけても埒が明かないため待ちぶせに作戦変更がなされた。


「本当にこの部屋に来るのか?」

 小声で天龍が尋ねる。

「……この時間に……ここで見かけたことが……ある」

 霰が答えた。ここは司令部の建屋の最上階の奥。普段はあまり人も来ない場所だ。

「知らねえ場所だねえ。なんか色々置いてあるし」
「私もあることしか知りませんでした」

 涼風と五月雨が呟く。

「しっ、感あり足音イチ」
「よし、捕獲準備」
「了解」

 天龍の小声の号令のもと、駆逐艦達が部屋の入り口に陣取る。彼女らの手には大きな麻袋。
部屋に入ってきたところを袋詰めにしようという考えだ。
 息を潜める天龍達、ガチャッという音ともに部屋のドアが開いた。

「いまだ!」
「おーっ」

 バサッ。

「わー、わー、なにー、なにこれー、どうなってるのー」

 麻袋の中でもがく声。やがて麻袋の口から顔がポンと飛び出した。駆逐艦、曙だ。

「召し捕ったり! これで昼飯が食えるぞ」
「わーー」

 天龍の勝ちどきに、駆逐艦達の喜びの声が重なった。


「一体何の騒ぎだい?」

 天龍が勝ちどきを上げたそのタイミングで、部屋に司令が入ってきた。
この部屋はトレーニング室なのだ。

「ああ、司令。訓練に出ない不届き者を捕まえたところだ」
「不届き者?」
「あー、クソ提督。これはあんたのせいか」

 袋から首だけ出して曙が叫ぶ。

「やれやれ、また誤解の種が増えたか」

 苦笑する司令。どうやら何かあるようだが……。 
 

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