少し前までは港町としてにぎわっていた そんな町のほど近く
一軒の古びたお店が建っています「カランコロン」
ドアベルの音がして中から人が出てきました歳は16〜7歳
耳のあたりについているアンテナのような耳飾りが特徴的な女の子ほうきとちり取りを持っています
きっとお店の前のお掃除ですね彼女の名前は『椎那』
ご近所でも評判の このお店の看板娘です
おや?
手際よくお掃除している彼女に誰かが話しかけていますね……「よっ 椎那ちゃんいつもご苦労さんだね」
どうやらご近所のおじさんのようです「こんにちは。今日は風が強いからこまめにやってるんです」
お掃除の手を止めて椎那が答えます「ん〜 えらいねえ。よしっ 今日釣れたこいつ、ご褒美だ」
おじさん にこにこしながらクーラーボックスの魚を出すと椎那に渡しました「え!? こんなに立派な魚をですか? そんな、申し訳ないです」
魚を渡されて椎那が困っています「いーからいーから、とっときな。遠慮なんかすることないよ」
おじさんが笑って言います「いえ、でも、いつも頂いてばかりですし……」
どうやらお魚を頂くのは今日が初めてじゃないようです「オレっちがいいってんだからいいんだよ。ま、だまって受け取ってくれや」
そうまで言われては断れないですね 椎那がうなずいています「うちのガキ共に椎那ちゃんの爪の垢煎じて飲ませてえくらいだよ。
ロボットにしとくにゃ惜しいねえ。まったく……」「え、あ、いえ、そんなことは……」
椎那があわてて否定します「んじゃ、マスターによろしくな。それでうまい刺身でも作ってやんな」
そう言うとおじさんは手を振りながら行ってしまいました「あ、はい! ありがとうございます」
深々とお辞儀をする椎那 晩ご飯のおかず決定のようです
「カランコロン」
ドアベルの音がしてお店から誰か出てきました40過ぎくらいのがっしりとした体格の男の人
眼鏡の似合う優しい感じの人です「どうした?椎那」
この人がこのお店のマスターさん「お店の前をお掃除していたら、坂の上のおじさんがご褒美だってこれを」
椎那がもらったお魚をマスターに見せてます「ありゃ。そりゃあよかったなあ、椎那。ちゃんとお礼は言ったかい?」
「はい、もちろん」「あのおっさん椎那のファンだからなあ…… 今度オレからも礼を言っておくよ」
ほっぺをぽりぽりかきながらマスターが苦笑いしています「それじゃ、このお魚はお台所に持って行っておきますね。今夜はお刺身です」
そう言うと椎那は魚を持ってお店の奥に入っていきました「そりゃあ楽しみだ」
マスターが掃除をしながら答えます
気のいいマスターと近所で評判の看板娘
二人の織りなす日々を 椎那の視点で綴ります
『ゆうぐれどきのそら』につづく