| mor1 戻る 天保9年オランダ風説 |
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風説書略文 天保九年戊戌 当秋長崎入津之阿蘭陀船主より之風説之由 日本人七人漂流仕候を暗尼利亜船、洋中ニ而救 申候由、右を蘭人見受候間、日本国之儀者鎖国之禁ニ 候得者、他国より直ニ届候事者出来不申、阿蘭陀人江 受取候而相届可申旨、兼而申渡有之候間、此方江渡し 可然由申候處、暗尼利亜人申候者、此方江直ニエフ 江届可申、其方ニ世話ニ者相成不申、と申断候由候 へハ、来春者浦賀江参り可申哉、送り参り候者ハ ヒチマンポンと申者ニ而、東洋十六島之総督之由、 人数も多く召連可申由 暗尼利亜国者近来他国ヲ切取、天竺も南のか た者悉く奪取申候、其外亜細亜海の諸島、亜墨 利加国を段々切取申候由ニ而追来也、魯西亜に抗 し強国ニ候、日本惣人数ハ三千万之処、暗尼利 亜ハ千七百万人ニ候へ者、日本三倍ニ御座候 此節之外暗尼利亜国之事ハ悉く調べ置申候 得どもここに略し申候 註 暗尼利亜 あんぐりあ、 イギリスの事 江府 江戸の事 天保九年 1838年、 モリソン号渡来は1837年7月(天保8） |
風説概略 天保九年 この秋に長崎に入港のオランダ船船長からの 話として、日本人7名が漂流しているのをイギリス船 が海上で救助したそうです。 これを聞いたオランダ 人が、日本は鎖国をしているので外国から直接引 渡す事は出来ない。 しかしオランダ人からは届け る事が出来るので此方に御渡し下さい、と言ったが イギリス人は自分達が直接江戸に届けるのでそちら の世話にはならないと断り、来春は浦賀へ行くとか 言って居りました 送る責任者はヒチマンポンと言う東洋16島の総督 の由で人数も多いようです。 イギリスは近来他国を占領し、インドも南の方は 全て奪い取る。 その他アジア地域の諸島、 アメリカ州を段々占領している。 ロシアに対抗 する強国です。 日本の総人口は３千万のところ イギリスは八千七百万故、日本の約三倍です。 此度イギリスについて調べた事概略報告します。 註１．7名を送って来るのはアメリカの商船 2．責任者はチャｰルス・キングと言うアメリカ商人 3．漂流人達は広東省澳門に滞在していた |
| mor2 戻る 評定一座見解 |
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当秋阿蘭陀船入津之節、カビタン共より書上 候風説書之趣、長崎奉行久世伊勢守窺ニ付 一漂流之日本人為乗組候異国船渡来可致哉之風説 書阿蘭陀カビタン差出候ニ付、取計方之義文化度松 前表江オロシヤ船渡来候節、被仰渡候御書取之趣 意、今般評議之趣ニ付而者不分明ニ有之哉、取調可 申上旨 右御書付写外ニ書付ども弐冊五通御添、越前守殿 以田中休蔵、一座江御渡、左衛門尉請取 去五日評議いたし可申旨被仰聞、被成御渡候久世伊勢 守相伺候書面一覧仕候處、此度入津仕候阿蘭陀新 古カヒタン差出候横文字付、和解為致候処、漂流之日 本人七人為乗船候モリソンと申エケレス船漂流人送 越候趣、右者商売相願候ため、江府近海江参り候風 説之由、右之通り日本人異国漂流仕罷在候趣ニ付、手 寄も有之候ハヽ、重而入津之節連渡候様、当秋和蘭陀 人出航之砌、可申渡哉之段、御内意相窺候趣ニ御座候 此儀林大学頭并神尾山城守、水野舎人御勘定吟味役 等、取調申上候書面等も夫々一覧之上、勘弁評議仕候 處、元来異国漂流之日本人連渡之儀、兼而阿蘭陀 人ニも心得罷在候、殊ニ今般カヒタン申立候風説通之儀 ヲ以、右漂流人連渡候様和蘭陀人江申渡候ハヽ、漂民 を憐救候儀者彼国之者共推考致間敷共難申、左候而者 外国江被対候趣意ニ触候筋ニ付、漂流人連渡り之儀 者阿蘭陀人江申渡すニ及ず候段被仰渡可然、且前書之 次第ヲ以、此度エケレス船江府近海江渡来之程も難斗 候得共、異国船打払之儀ニ付而者、文化八酉年之御 書付ニイキリス船先年於長崎、狼藉ニ及び近年者所々ニ 乗寄せ、薪水食料ヲ乞ひ、去寅年ニ至而者猥ニ致上陸 或ハ廻船之米穀、島方之船野牛等奪取候段、追々横 行之振舞、其上邪宗門勧メ入候致方も相聞候旁、難 捨置事ニ候、一躰イキリスニ不限、南蛮西洋之儀者 御製禁邪教之国ニ候間、以来何之浦方ニ於而も異国 船ヲ見請候ハヽ其所ニ有合候人夫ヲ以、一図ニ打払逃 延候ハヽ追舟ニ不及差出其分ニ差置、押而致上陸候 ハヽ搦取又者打留候而も不苦候、本船近寄候ハヽ打潰 候共是又時宜次第可取計旨、被仰出候、尤唐朝鮮琉球 抔者舟形人物も可相分候得共、阿蘭陀ハ見分ケ相成 兼可申哉、右等之船万一見損之打誤り候とも御察度 有之間敷、況交易願望之趣意ヲ含、信義ヲ唱へ漂 民ヲ囮に利ヲ斗候様、猶更之仕方ニ付、大学頭申上候 趣も有之候得共、大躰蛮異之奸賊ニ対し接待之礼ヲ可 設筋ニ者有之間敷候、仮令漂民連渡候とも、山城守申上 候文化度長崎表江致渡来候魯西亜船、日本漂流人連 候節被仰渡候趣等、思弁候而も 御仁恵ヲ被施候者平常ニ有之所ニ而 御国之災害ヲ被為除候為メ、賎民之存亡ニ不拘候取計 可有之者 御国制之大事、一時権変之御仕置ニ付 敢而君徳ヲ落し候道理者有之間敷候間、向後弥右 御書付之趣ヲ以、無二念打払之義勿論ニ有之候、尤海 岸御備の儀者兼々向々ニ於て心得罷在候上者今般 風説之趣、別段右向江御沙汰ニ者及申間敷候儀と奉 存候、右評議仕候趣、書面之通ニ御座候、書付五通 返上仕候、以上 評定一座 |
今秋オランダ船入港時、商館長達が書いて提出の 風説書の事に関し、長崎奉行久世伊勢守の伺いに 付いて 漂流日本人を連れ異国船が渡来する由の風説書を オランダ商館長から提出あった件、取扱い方は 文化年間に松前へロシア船渡来時の例に随うのか 今般の評定所の方針を検討の為、書付2冊五通 添えて、老中首座の水野越前守殿より田中久蔵を 通じて評定一座へ渡され、遠山左衛門尉(大目付） が受取る。 (評定所意見大意） 去る五日評議する様指示された久世伊勢守の 伺書を一覧、此度入港のオランダの新旧商館長 からの書類を翻訳させた所、漂流の日本人七人を モリソンと言うイギリス船に乗せて送還して交易を を願う為に江戸近海へ来るという風説である。 この件林大学頭、神尾山城守、水野舎人勘定吟味 役等関連書類を夫々一覧し、熟考評議する。 以前から異国漂流の日本人の送還は、今般商館長 報告の様に、オランダ人に依頼してあり、日本は 漂流民を救わないと、外国が考える事は無い筈。 風説によればイギリス船は江戸近海へ渡来する事も 考えられる。 記録によればイギリスは文化8年 （1811）に長崎で狼藉を行い、その後も所々で 薪水を乞い、勝手に上陸したり、廻船の米を奪ったり 島で牛を奪うなど横暴な振舞が多く、その上キリスト教 を勧めた等もあった。 その為放置できず異国船 打払令が文政8（1825）に出された。 打払令では、イギリスに限らず西洋諸国はキリスト教 の国であり、今後どこの海岸でも異国船を見たら その場で打払い、逃げれば追う必要ないが上陸 すれば捕縛するか場合に依り打殺してもよく、本船 が近付けば打潰す事も臨機応変処置する。 中国・朝鮮・琉球の船は形で分るがオランダ船は 見分けが難しく、万一間違ってオランダ船を打払う 事も止むを得ないとされている。 今回は交易を含んで信義を唱え、漂流民をおとり に利を図るような野蛮な連中に応対する筋はない。 文化年間にロシア船が漂流人は連れてきたがその 時にも交易は断っている。 民に情けを掛けるのは政治であるが、国の災難を 除く為には少数の民の存亡に拘らずに臨機応変の 処置を取っても君徳を落とす事にはならないので 打払が当然である。 海岸の防禦は通常から備えているので今般の風説 の事は特に現場には伝える必要は無い。 註１． イギリス船の問題 文化5年（1808）： フェートン号事件はオランダ国旗 掲げたイギリス船フェートン号が長崎港侵入し 出迎えた出島オランダ人を人質に薪水要求 文政7年（1824）： 常陸上陸、 薩摩藩宝島で牛を奪う 註2 ロシヤ 文化元年（1803） レザノフが仙台漂流民四名送還 漂流民は引取ったが交易は断る 註３ 評定一座： 担当老中、大目付、目付 町奉行、勘定奉行、寺社奉行で構成され幕府の 意思決定 諮問委員会 |
| mor3 戻る 高野長英判決文 |
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| 御留守居 松平内匠頭与力 青山儀兵衛地借 町医 長 英 其方儀年来蘭学を好伝て、蘭書之理義を解訳 致し候ニ随ひ、蛮国之教政行届候様ニ信用致し罷 在候所、イギリス人モリソンと申もの日本漂流之もの 自国之船へ乗、江戸近海江送来り候旨風聞承、モリ ソン者唐土ニ留学致し学才有之候ものニ付、官禄重 く被用候由、兼而及承居候所、右躰表ニ信義を唱 其身漂民を送来候者漢語にも通じ候故を以、阿 蘭陀人之取次を省キ直ニ彼国之事情を訴、交易 之儀を歎願致し候儀ニ可有之処、右之趣意御糺も無 之、兼而御触之通打払被 仰付候而者 御仁恵之御趣意不相当、其上外国之恨を買ひ不容 易儀と存迷、夢物語と題号致し候書を著述致 し候段、全く御役筋之御聴ニも達申置致し候心底ニ而 致し成候儀之旨者申立候得共、世間江流布致し人心 をも動し候仕儀ニ相成、渡辺登呼出しニ相成候趣承 およひ、其方儀呼出可相成も難計存、病家先立廻り 罷在候所、行衛穿鑿有之旨及承、安房守御役所江自 訴致し候得共、不軽 公儀致し方、右始末不届ニ付永牢申付ル |
留守居役 松平内匠頭の与力 青山儀兵衛の地借人 町医者 長英 その方は長年蘭学を好み伝え、蘭書の意味等解釈 もしてきたが、西洋諸国の政治が勝れていると信用 していたところ、イギリス人モリソンと言う者が日本人 漂流者を自国船で江戸近海へ送って来る噂を聞く モリソンは中国に留学して学識あり、政府からも 重用されている由聞いており、漂流民移送の信義を 唱えて、漢語にも通じているのでオランダ人を省き 交易を願おうとしているのに、この事を吟味せず 通常通りに打払いをされるのは、情けある処置には 相当せず、その上外国の恨みを買って大変な事に なると思い、夢物語と題する本を書いた。 役筋 の参考になればとの気であった事は申し述べて いるが、世間に流布し人心を動かした事になった。 渡辺登が呼出になり自分も呼び出されるものと 思い、患者の家を廻ってる間に行方を捜索されて いる事を知り、大草安房守の北町奉行所へ自首 したが、公儀に対して不届きであり永牢を申付ける 註 渡辺登 （崋山）も同様の理由で蟄居謹慎 |
| mor4 戻る 天保八年英吉利船浦賀渡来 |
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一筆奉啓上候、然者先刻申上候異国船、追々走参候ニ付 私儀人数召連、平根山御台場江相詰申候処、右船平 根山御備場凡壱里半程ニ懸付打払候処、取置平根山 より二里程上手、相州野比村沖合江船留候ニ付、組之者 遠見差出、異国船より凡拾丁隔見請候処、イギリス船 にも可有御座哉、文政五午年四月渡来之船ニ似寄、凡 三千石余積相見、乗組人数之儀者相分兼申候、猶追々 可申上候得共、此段申上度持急札候、恐惶謹厳 太田運八郎 六月廿八日 資統判 松 和泉守様 |
一筆啓上致します。 ところで先刻も申上げた異国船は 段々近づいてきましたので、私は一隊を率いて平根山 砲台に詰めました。 この船は同所より凡そ一里半程に 航行していたので大砲で打払ったところ、二里半程南の 相模の国野比村の沖合いに船を留めました。 浦賀奉行 組の者を偵察に送り、異国船に1000m程で観察したところ イギリス船でしょうか、文政5年4月に渡来した船に良く似て おり、凡そ3000石積位に見えます。 乗組み人数等は 判りませんが逐次ご報告申上げますが、取敢えず本件 至急便で送ります。 恐惶謹厳 太田運八郎 （浦賀奉行） 天保8年6月28日 資統判 松平和泉守様 水野越前守様 太田備後守様 松平伊豆守様（四名何れも老中） 関係各位 別紙により昨28日の件続けて申上げます。 異国船は相模の野比村沖合いに留まっておりますので 早速打払を行うべきですが、その夜特に風雨が強かったので 番船に厳重に監視させ、野比村の白根に三百目大砲、 其外の大砲を回送し、今日暁に船が見えるようになると 陸地及び番船から砲撃したところ、早々帆を揚げて出帆 しました。 伊豆大島沖へ向って走り去りました。 更に 監視船を出すよう指示しておりますが、又後程報告します 太田運八郎 天保8年6月29日 資統判 四名様 関係各位 註 以上はモリソン号が浦賀に近づいた時の浦賀奉行の 処理報告書であるが、この時浦賀奉行も報告を受けた 老中もこの船がモリソン号とは認識していない。 |
| 出典 国立公文書館内閣文庫 蠧余一得 初集巻五 | |