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        ハリスの通商条約の必要性演説内容

 原文は和漢混交体で一つ書きで延々と記述されているが、演説の内容に沿って
以下の様に見出しを付けて読み下し文にする。

    1.米国の非侵略主義と日本への好意
  2.交通・通信技術発達による世界の変貌
  3.英・魯の確執と日本の危機
  4.鎖国の不利と清朝の悲劇
  5.阿片の弊害と清朝(中国)の衰退
  6.英国の日本へ阿片持込意図と米国の厳禁方針
  7.日本に対する英仏の野望と米国の安全保障
  8.結び、通商条約交渉開始を進言

安政四丁巳年十月廿六日、備中守宅において亜墨利加使節申立候趣
(安政雑記第六冊より)
      
    (米国の非侵略主義と日本への好意)

一今日申上候事件の大切の義、大統領においても尤重大の義と存居候
 大君殿下を大切に存候義に付、右御心得を以御聞取下さるべく候
一大君え差上候書翰中の義を只今猶又申上候義に付、大統領御直に
 申上候御心得にて御聞取下さるべく候
一今日申上候義は何れも包置候義は仕らず、掌の如く極明白にて
 聊
(いささか)にても隠し候義は御座なく候
一大統領日本政府の為に大切と心得候義は包置候事何分相成り難く
 右の懇等より出候次第に付、何事も腹蔵なく申上候義に御座候
一合衆国と条約成りなされ候は御国において、外国と条約御結び
 成られ候の初ての義故、大統領においても御国の義は他国と違ひ  
 親友の相心得居申候                          
*和親条約を米国と最初に結ぶ
一合衆国の所置は外国と違ひ、東方に所領の国もこれなく候間
 新に東方に領を得候義は相願申さず候                 
 *領土取得欲は無い
一合衆国の政府においては他方に所領を得候義ハ禁申候      
*領土取得は政府が禁止
一国々より合衆国の郡に入候義を願候事、是迄度々御座候へども
 遠方掛隔居候所は都
(すべ)て断に及び候
一三ケ年以前サントウウィス嶋も合衆国の郡に加り度旨申聞候     
*ハワイ諸島
 へども是を以て断申候   
一是迄一里たりとも干戈
(かんか)を以て合衆国の郡に入候義は決して御座なく候
一是迄合衆国他邦と会盟致し候義もこれあり候へども、右は干戈を
 用候義にこれなく、条約を以って相結び候事に御座候
一只今申上候義は合衆国一体の風義を御心得迄に申上候義御座候
    
   (交通・通信技術発達による世界の変貌)

一五ヶ年以来西洋は種々変化仕候義に御座候             
*五ヶ年: ママ、五十年カ
一蒸気船発明以来遠方掛隔
(かけへだて候国々も極手近き様相成申候 *1807年フルトンの試運転
一エレキトルテレカラフ発明以来、別して遠方の事も速に相分候様罷成候
 右器械を用候へば江戸表より華盛頓迄一時の間に応答出来いたし候 
*1837年モールス発明
一カルホルニヤより日本え十八日にて参候義出来致候義、蒸気船
 発明故の義と存じ奉り候
一右蒸気船発明により諸方の交易も弥
(いよいよ)盛に相成申候
一右様相成候故、西洋諸州何れも富候様相成申候
   
一西洋各国にては世界中一族に相成候様致し度き心得にこれあり、
 右の蒸気船相用候故に御座候
一右故遮って外と交を結ばざる国は世界一統いたし候差障
(さしさわり)候間
 取除候心得に御座候                              
 *自由貿易の推進
一何れの政府にても一統いたし候義を拒候権はこれあるまじく、右
 一統いたし候に付、二ツ願御座候
一其一は使節同様の事務宰相控ミニストル一名、アケントを都府に差置
 付候様いたし度義に御座候                           
*公使の駐在
一一方の願は国々のもの勝手に商売致候義相成候様致し度候      
*民間の自由貿易
一右申上候二ケ条は亜墨利加の為のみにこれなく、諸州の希望に御座候
一只今申上候は西洋各国の希願にて亜墨利加においては左迄の
 願には御座なく候
    
     (英・魯の確執と日本の危機)

一日本は危難に落掛居申候、右英吉利に差続欧羅巴各国
 の事に御座候
一英吉利国の水師提督ヤーメスチリリング取結候条約は彼政府 *James Stirlingと長崎奉行が結んだ
 にては不伏(不服)に御座候                       
日英和親条約(箱館と長崎の開港
一彼政府の心得にては日本との交も各国同様にいたし度との事に御座候
*自由貿易可能な条約か
一英吉利は日本と争戦いたし候義好て心掛居申候、右の次第は次に申上候
一英吉利は東印度所領を魯西亜の為に殊の外気遣居候義に御座候
一近来英吉利・佛蘭西一致し、魯西亜と戦争に及び候は魯西亜の所々*クリミア戦争(1854-1856
 蚕食いたし候を悪
(にくみ)ての義に御座候          英仏トルコ対ロシア:トルコの利権争奪戦
一魯西亜のサカレン・アミルを領し居候義を英吉利国において尤悪み居申候
 *カラフト、アムール
一魯西亜の彼筋より満州及唐国を横領致すべく義と英吉利存居候
一満州ならび唐国を魯西亜にて領候様相成候はば、其兵を以って英吉利
 所領の東印度を横領致し候様相成り可申すべく、左候へば魯英の戦争
 又候
(またぞろ)起候事と存候
一右様相成候ハヽ英国にては魯国を防候義、殊の外六ケ敷これあり
 右を防候手段、英国おいて尤肝要の事と存候
一夫故好
(よ)きサカレンならび蝦夷箱館を領し候様、英国にては心掛居申候 
 左候へば魯国を防候には格別の便り(頼り)と相成申し候
一右のサカレン・蝦夷を領候様相成候はば無数の海軍を両所に渡置
 カムシャツカの港ヘートルボルスキとサカレンとの間を断切
(断絶)候儀
 と相成候                                     
*オホーツク海の封鎖
一英国は地続の満州より蝦夷の方を格別望み居り候
     
      (鎖国の不利と清朝の悲劇)
一日本ならび唐国は西洋各国同様の交は開き申さず矢張一本立の
 姿に御座候                                     
*鎖国を指す
一兼て大統領より唐国今の振合に心を付候様致すべき旨申付越候
一唐国は十八ケ年前英国と戦争相起候、右の節アケント都下に罷在  *1840-42年阿片戦争
 候はば干戈に及ぶ間敷と存候                 
         アケント: Agent 公使
一唐国政府の存念は広東奉行の取扱を以って相済まさせ、政府
  にては取扱わざる様致すべくと存候より破れに及び候義に御座候
一広東奉行全拵事いたし、程能政府え申立するのみならず右奉行
  英吉利国え対し権高にこれあり候故、戦争相起申候     
*林則徐の輸入阿片没収の事か
一終には戦争により百万人の人命を唐国にては失ひ申候
一此戦争に付、唐国の港は残らず英国に乗取られ、剰
(あまつさえ)
 南京をも乗取られ申候
一右戦争中の雑費は差置、和議を求候為に小判に致し候へば
 五百万両唐国より英国へ償として相渡申候
一右数百万の人数ならび数万の金子相渡候義は十分一にて
  其外諸費等申し尽し難き事に御座候
一右の外唐国弱り候故、市中其外砦など悉乱妨いたし候  *
政府の統制が取れないとの意味か
一右故唐国の元来富候へども弥
(いよいよ)衰へ、終に先年韃靼の戦争
  同様力を失ひ候事に及び申候   
*此頃1850年以来の太平天国の乱で清朝は疲弊していた事か
一唐国の物成も半分減申候、右は韃靼も不伏に付、国用を分ち
 相送り候故、旁
(かたがた)以って疲弊いたし候
一前条の場合により再度戦起り候様相成候

一今又英吉利・佛蘭西一致いたし、唐国に戦争を仕掛申候     *アロー号事件
 只今の処にては此上行末如何相成るべきや、実に計り難く候  
第二次阿片戦争(1857-1860)
一只今の姿にては何事も英吉利・佛蘭西の望の通り聞済候様
 相成り申すべし、左もこれなく候はば全国皆英仏両国の所領と
 相成べく候
一先ず英国の望を残らず許し候様致し候ては、国中不伏
(不服)これ
 なき様夫々取計わず候ては相成間敷、其内にて英国弥
(いよいよ)
 強盛に相成り申すべく候
一佛蘭西は高麗、英吉利は台湾を領し候由御座候         
*由:ママ、望カ
一当時の戦和義に至り候は矢張夫が為に諸費を出さず候ては
 相成間敷候
一只今申上げ候趣を以って能々
(よくよく)御勘考御用心遊さるべく候
一天に誓申上候、只今の戦もアゲント北京に罷在候はば必起りは
 仕間敷候

一英吉利・佛蘭西両国政府より唐国の戦に荷担いたし候様
 頼越候へども大統領断りにおよび候
一全体唐国にて亜墨利加人を取扱の事に付て、自国政府不快
 に存候義も御座候へども、人等荷担致し候戦争仕向の義は相断
 一切仕らず候
一亜墨利加軍艦ポルツモーツと申船え唐国の砦より、日は不
 同に候へども両度迄鉄砲打掛候義これあり、右は何等の事により
 全体不法の所業に及ぶや、唐国政府へ懸合に及び候処、何とも
 答出し申さず候に付此方よりも同様鉄砲打懸申候
一自国の水師提督アルムストロング義、右に付広東港口の砦
 四ヶ所据構これあり候大砲は勿論、石垣まで悉く毀破申候    
*James Armstrong
一右打砕候より広東の下奉行詫入候に付、其戦は事止申候
一亜墨利加政府は英人等に力を合わせ唐国と戦争いたし候義は
 御座なく候
一併し唐国の所為は宜しからぬ義と各国皆唱え居り申候
    
        (阿片の弊害と中国の衰退)
一唐国争乱の基本は一ツこれあり候、右は阿片に御座候
一三十年前は広東近辺に壱ヵ所に限り、其他は阿片を一切用ひ申さず候
一当時は諸方にて相用、其人数百万余にも相成申すべし、其費夥敷
 事に御座候
一二ヵ年前一ヵ年阿片多葉粉に費
(ついやす)る高弐千五百万両と
 相聞申候
一五ヵ年の費用平均に致候へば三千万両程に相成申候
一唐国の害は此一方のみにこれなく候
一阿片を用候へば躰を弱くいたし候事、外の毒よりきびしく御座候
一阿片を用候へば富家も貧に相成、才気これあり候者も精神疲れ
 物事相考候義相成り申さず、終には何れも非人同様道路に倒れ
 臥し候様相成り、右貧困より盗賊等の悪事を仕出し、死を顧みず
 働いたし候者少からず候
一年々千人づつ阿片の為に悪事を仕出、刑罰に逢候由
一去ながら悪事は次第に弘
(ひろま)り、阿片も弥(いよいよ)盛に行なわれ候
一当時唐国帝の叔父も阿片を呑候て終に死去いたし候

一右様夥敷阿片残らず英国所領の東印度中産出致し候
一右の通唐国の害には相成り候へども、英国にては利益の為
  其害を厭わず少しも禁じ申さず候
一夫故英吉利と唐国との条約に阿片と申す字を約書中に入候義
 厳しく断り申し候
一唐国には右の通禁じ置候へども、英国にては利益を得る事故、
 右阿片を乗せ候船は石火矢など堅固に備付候て密かに売買を
 いたし候                                       
*武装密輸船の横行
一右様石火矢等堅固に備居候故、唐国の厳禁を犯候段、唐国の
 役人も心付居候へども手を下し候義相成り難く、港口に安全碇泊
 致させ、心ならずも奸商致させ申し候
       
      (英国の日本へ阿片持込意図と米国の厳禁方針)
一英吉利人は日本にても唐国同様阿片を好み候ものこれあると
 持渡り売弘め度志願に相見え申し候
一壱度阿片を用候へば終身止み候義相成らぬ段、英人も能く弁
(わきま)
 へ居申す故、日本へも壱度弘め置度との心底と御座候
一合衆国大統領日本の為に阿片を戦争より危踏
(あやぶみ)居申し候
一戦争の費
(ついえ)は時を過候へば補方もこれあり、若し阿片を呑覚
 候へば年を重ね候とも取返し相成り難く候
一夫故阿片交易は格別大切に御心付成られ候様、大統領も申し居候
一条約成され候はば阿片の禁を聢
(しか)と御立成られ候様、大統領申聞候

一若し亜墨利加人阿片等持越候はば日本御役人にて御焼捨成され
  候とも如何様に成され候とも、御取計らい成さるべく候
一亜墨利加人上陸、阿片持越し弘め候義等これあり候はば、阿片御取上
 御焼捨の上、過料御取立成られ苦しからず候
一大統領誓って申上候、日本も外国同様港口開売買御始、アケント
 御迎ひ置かれ候はば御安全の事と存候
      
        (西洋諸国との戦争回避と条約の力)
一余り久敷治年打続候へば却って其国の為に相成らざる事も御座候
一治年打続候へば武事相怠り、調練等行届きかね申候
一大統領考候には日本人は世界中の英雄と存候、尤英雄は戦の節に
  臨ミ候ては格別貴きものに御座候へども、勇は術の為に制せられ候もの故
  勇のみにて術これなく候ては実は貴ひ候義には参り難きものに御座候
一戦争には蒸気船、其外軍器宜
(よろしき)物第一に御座候
一仮令
(たとい)英国と合戦成しなされ候とも英国にては左迄の事には
 これあるまじく候へども、御国にては御損失夥しき事と存じ奉り候
一海岸只一方に候とも其難義を受候義は申尽し難くこれあり候
一日本は誠に天幸にて戦争の辛苦は書史にて御覧に成られ候迄にて*ハリス自身1812年米英戦争
  遂に実地を御覧に成られ候義はこれなき段、重畳の事に候 
     の辛酸を体験し英国嫌いとなる
一大統領必願は日本人をして戦争を史録にて見及び、実地御熟覧
 これなき様いたし度との事に御座候
一英吉利・佛蘭西両国に候はば無論、仮令一国にても御国は格別掛隔て
 居り申さず候はば疾
(とっく)に戦争相起り候事にこれあるべし、全く掛隔て
 候故只今以って其沙汰これなき義に御座候
一戦争の終りは何れ条約取結ひ申さず候ては相成り難き事に候

一大統領願は戦争に至らず互に敬礼を尽して条約相結び候様致し度
 との義に御座候
一西洋近来名高き惣提督の語に、格別の勝利を得候戦よりは
  つまらぬ無事の方宜方にこれあり候
一大統領の心得にては合衆国と堅固の条約御結び成られ候はば必
 外国も右を規則と致し、御心配の義等は向後決してこれある間敷候
一大統領義御国の誉を落さず、敬礼を尽し条約取結び、御混雑これなき様
 心懸居申し候
一合衆国政府の別府として罷越候、船も筒もこれなき私と条約御取結ひ
 相成り候はば御国の誉を落し候義はこれある間敷と存じ奉り候
一壱人と条約御取結び成られ候と品川沖へ五十艘の軍船引連参り候者と
 条約成され候とは格別の相違に御座候
一今般大統領より私差越候は懇切の意より起候義にて、隔意これあり候ての
 事にはこれなく、外国より使節等差越候とは訳違い申し候
 右等の義得と御推考下さるべく候
一殊に此度御開港御免許相成り候共、一時に御開きと申す義にはこれなく
 候、漸々時を追い御開き相成候様致し候はば御都合然るべしと存じ奉り候

一英国と条約御取結びに候はば必左様には相成間敷と大統領申居候
一猶阿片の義は合衆国の条約え聢と御据置かれ候はば、英国にて削り
 申すべく存じ候とも相叶ひ申す間敷候
一国々より条約の為使節差越候とも、世界第一の合衆国の使節とかくの如く
 御取極相成候旨仰聞
(おうせきかせ)候はば、決して其上彼是と申間敷候
一合衆国大統領は別段飛放れ候願は仕らず、合衆国民人へ過ぎ
 及ばざるなき、平等の義御許の程を願居候事に御座候
      
       (新しい宗教の考え方)
一弐百年前ポルトガル人・イスハニア人御放遂成され候頃と只今とは
 外国の風習大に異り申し候、其頃は宗門の事を皆願居申し候
一亜墨利加にては宗旨などは皆人々の望に任せ、夫も是禁候又は勧候
 様の事更にこれなく候間、何を信仰いたし候共人々の心次第に御座候
一西洋にては一方の宗門を外宗に改候者これあり候とも、干戈を用ひ
 候様の義は当時決してこれなく、其人の好みに任せ候義御座候
一当時欧羅巴にては信仰致候基本を見出し申候、右は銘々心に信じ候故
 其心に任せ候より外致方これなきと決着いたし候
一是を禁じ候も又勧め候義致さず候
一宗門種々これあり候へども、詰り人を善くいたし候趣意に付、彼を誹り
 是を誉、己が門引入候は宜からざる人の所意にこれあり候
一亜墨利加にては仏の堂も邪蘇の堂も一様に並居、一目見渡候様に
 致しこれあり、宗門に付壱人も邪心を抱き候ものこれなく、銘々安らかに
 今日を送り申し候
一ホルトカル人・イスハニヤ人など日本へ参り候は自己の義にて政府の
 申付にはこれなく候
一其段罷越候者は商売をいたし、宗門を勧め其上干戈を以って日本を
 横領いたし候内存
(ないぞん)にて参り候義と存じ奉り候
一右参り候者は廉直のものにこれなく、反逆をいたし候見込の者故
 其人物も推知られ申し候、然る所幸当時は右様のものこれなく候 
一当時は右様の者相尽、世界一統睦くいたし度と何れも心掛罷在候      
 *当時:現在
     
       (交易のメリットと安全保障)
一仮令
(たとえ)ば英国にて凶作打続き、食物に困り候へば豊成国より
  商売を休め、食物を運遣し候様の風義に御座候
一交易と申候へども品物に限り候様相聞候へども、新規発明の義抔
  互ニ通し合、国益にいたし候も又交易の一端に御座候
一農作は国中第一の業ニ候へども国内の者悉く農作いたし候様には
  相成り申さず、其内には職人も産業いたし候者もこれあり、互に助
  合候義に御座候
一国々にては他国の方、細工も奇麗に値も安き品も数多御座候
一国用より多く出来いたし候品は外国へ相渡し、其国にこれなき産物
 は他邦より運入候義にこれあり候
一夫故諸国え交易を致し候えば造り出し候品も多く相成り、且は外国
 の品も自由に得候義出来致し候
一自国に製申さぬ品々も容易に得られ候は交易にこれあり候
一交易は互の弁利
(便利)の為、懇切の意より致し候事故、交易を致し
 候へば戦争をさけ候様自然相成り申し候
一尤他邦より産物運入候節は、其租税の必差出申候、亜墨利加にては
 右租税を以って国内の費用を償ひ、尚年々宝蔵に納置候事に御座候 
*関税を国家の歳入とする
一租税之法種々これあり候得共、先他邦より輸入致し候ものの税より十分
*輸入税で十分である
 成るものはこれなく候

一交易は格別尊き義は尚繰返し申上ぐべく候
一国々の懇切は交易よりと申上候は、交易致し候へば漸々睦しく
 相成り候義に御座候
一私義日本え参り掛シャムえ罷越、条約取結ひ申し候、其後右振合を以って
 同国佛蘭西と条約相結び申し候、右亜墨利加・佛蘭西と条約相結び候趣意*ハリスは日本駐在
 兼て英吉利シャムを奪候心胆相見え候故、其横領を防候為に御座候
   シャムと通商条約を結ぶ
一東印度は只今一円英吉利の所領と相成候へども、元来は数カ国に
 分れ居候所、何れも西洋と条約取結ばざる故、遂に英吉利国に一統致され候
 右英国より攻られ候砌
(みぎり)、条約相結候与国等助け候ものこれなき故
 容易に攻取られ申し候
一他邦と条約取結ばざる一本立の国は損なる義、諸方において
 右より別して心付申し候
一故に日本においても東印度の振合を以って、得
(とく)と御勘考これあり候
 様存じ奉り候

一日本も交易御開相成り候はば御国の船印諸州の港々にて見知候様
 相成り申すべく候
一高山に格別眼力宜
(よろしき)人登り見候はば、亜墨利加州の鯨漁船艘
 日本国の周に寄合鯨漁いたし候義相見え申すべく候、自国にて致し難き業も
 これなく様絶えて宜しからず、他国の者のみ利を得候段笑止の事に御座候
一大統領より亜墨利加にて心得居候義ハ、何成りとも御伝申し候様申付候
一軍船・蒸気船其外何様の軍器にても、御入用の品々持渡り候様致すべし
 海軍の士官、陸軍の士官、歩軍の士官幾百人成りとも御用に候はば
 差出申すべく候
一大統領には西洋各国と若し確執等これある節は、格別大切の取扱、媒に
 立置かれ候様、兼ねて申唱へ心掛罷在候
一先ず亜墨利加国より条約御結び成され候はば外国にも右を踰望  
    *踰:超える
 候義決してこれある間敷、右の廉則篇に相立候印に御座候
       
       (英仏の日本に対する野望と米国の安全保障)
一私義日本え渡来致し候節、香港において英吉利の総督ションホウリンクに
 面会致し候処、日本えの使節申付られ候や内々話聞候
 其後御国へ参り候てより書簡四通差越申候  
*Sir Jhon Bowring 第四代香港総督〔1854-56)
一勿論右面会は私に出会候儀に御座候、右差越候書翰中日本政府係り
 候事認めこれあり候
一右の内日本え渡来の節は、日本人是迄見及ばざる程軍船を率ひ
 江戸表え罷越、談判に及び仕候心得の由御座候
一江戸より外に罷越積りこれなき由申越候
一右願の一はミニストル・アケントの官人を都府に留置候義、第二は日本
 数ヶ所に英吉利船参り、自国の品を賖の通、勝手次第に日本の品物を   *賖:担保とする
 買調候様いたし度心願にこれあり、若し右の心願成就致さず候はば
 直に干戈に及び候心組の由、尤唐国の争戦にて渡来いたし期、遅延
 いたし候由申越候
一最前同人の見込にては、当三月江戸え参り候筈にこれあり候、全く
 唐国の戦争故遅延に及び候事と存じ奉り候 
                                
一佛蘭西も同様に付、参り候節は一同に罷越すべく候
一当時の所にては最前より船数直殖候事にてこれあるべく候    
*直殖:直ぐに殖えるの意味か
一終りの書翰に申越候趣にては、蒸気船ばかり五十艘余に至るべき
  由に候
一余事にはこれなく唐国戦争故遅れにおよび候事にて、左もこれなくば
  疾
(はやく)に参り候事にこれあるべく候
一唐国戦争相止み候はば直様参り候段、聊
(いささか)も相違これなく候
一格別上智のものの申し候には、今般唐国の戦永くは相堪
(たえ)
  義とても出来申す間敷由、左候へば程なく御当地え参り申すべく候
一憚りながら御手前様・御同列様御談判の上、其節は御取扱方等 
 *堀田備中守正睦筆頭老中
 御治定成され置候様存じ奉り候、私考の所にては交易条約御取結
 の外は扱方もこれある間敷と存じ奉り候
一少し模様相替候、交易条約は早速にも御治定相成り候様存じ奉り候
一私名前にて東方に罷在候英吉利・佛蘭西の高官も書状差遣し、
 日本政府において交易条約御取結ひ成なされ、尚外国えも一般
 御免許相成り候筈の趣申達し候はば、五十艘の蒸気も一艘又は
 二三艘にて事済候様相成り申すべく候
   
        (結び、通商条約交渉開始を進言)
一今日は大統領の存寄ならび兼て申上置候英国政府の内存等
 内々申上候義に御座候
一今日は私一世中の幸の日に御座候
一今日申上候義御取用相成り日本安全の御謀と相成り候はば、此上なき
 幸の義と存じ奉り候
一右の趣得と御勘考成し下され御同列様えも御申し伝え、御談判
 遊ばされ候様仕度
(つかまつりたく)
一只今申上候義は世界中の誠にて一切取飾等御座なく候
  
右の通申立候事
      (安政四)巳十月廿六日                        
*1857年12月12日


上記はハリスが英語で語り、ヒュースケンがオランダ語に訳し、それを日本の通訳(主席は
森山栄之助)が和訳したものと思われる。 150年前の当時の世界情勢が生き生きと表現されている


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