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                       江戸の喫煙論争

最近のニュースによれば我国の喫煙率が終に20%を割ったと言う。 日本たばこ産業会社もたいへんだろうなと思うのは早計で、円安も幸し輸出で大いに稼いで国家に貢献している由である。 

私が社会に出たのは昭和
40年だが、その頃20代男性の喫煙率は80.5%だったとの事なので5人中4人が喫煙者であり、将に多数派に属して喫煙していた事になる。 そして平成25年には65歳以上の男性の喫煙率は32.2%との事なので3人中2人は非喫煙者である。8年程前に非喫煙に転じた私はここでも多数派になっており何と日和見かと自嘲するものである。 喫煙を止めた理由も余り劇的なものでない。 喫煙する場所が社会及び家庭からじわじわと締め出されて、本来ストレスを和らげる筈の喫煙が却ってストレスを昂じさせる事になってきた。 その為に最早益なしと思って歯の治療で中断したのを契機に、40年以上付き合った煙と縁を切ったものである。

  喫煙の習慣は我国では江戸時代初期1610年頃に始ったと云われており彼是400年の歴史を持つ。 喫煙、嫌煙の論争も今に始った事でなく江戸時代中期でも盛んだった様である。 江戸後期にまとめられた「文鳳堂雑纂」と云う書物に禁煙派、愛煙派夫々の論が載っているので紹介しておきたい。
  禁煙派が煙草は身体に悪い、風俗が良くない、煙草栽培で貴重な畑が占領される等々と論じれば、喫煙派は煙草の毒など根拠なく起因する病気も聞いた事がない、煙草を吸い過ぎて身上潰した奴はいない、煙草栽培は各地の重要産業で畑を無駄になどしていない等々である。 しかし愛煙派が論ずる中で禁煙論者は煙草を吸った事も無く、喫煙による精神的な安らぎ等の良さを知らずに無益ばかり論じるのはフェアでないとも言っている。 これらの論点は
250年以上経た現代にも通じるものがある。 煙草と病気の因果関係は最近でこそ肺がんなどが取り上げられているが、これもかなり異説もあり皆が肺がんになる訳でもない。 

40年以上喫煙して身体に悪いとは今でも思っていないが、煙草を止めて見ると煙草の匂いに凄く敏感になり決して良い香りとは思わない。 特にヤニの匂いは喫煙している時でも好きにはなれなかったが。 その限りでは吸わない人達には随分迷惑をかけたのかなと申し訳ない気持ちはある。

江戸の煙草論争(原文翻刻及び現代語訳)→
こちら

出典:
最近のニュース: 日本たばこ産業調査 平成26年喫煙率19.7% (男30.3%、女9.8%)

喫煙率:厚生労働省の最新たばこ情報 昭和40年―平成25年 年代別喫煙率推移
文鳳堂雑纂: 国立公文書館内閣文庫写本
画像:扇子に狂歌を書き一服する山東京伝(1790年代著名な戯作者、浮世絵師)
東京国立博物舘蔵